慢性的なストレス過多が負の連鎖を引き起こす

ここまでの流れをまとめると、「おうちストレス」がメンタル不調を引き起こすメカニズムは次のとおりです。

・まず、家にいることで受ける慢性的な「おうちストレス」によって、コルチゾールが無駄遣いされる。やがてコルチゾールが枯渇し、ホルモンのフィードバック機能がはたらかなくなり、扁桃体が暴走する。
・扁桃体の暴走は前頭葉の機能も抑制し、感情のフタが外れ、本能のままに思考や行動してしまうようになる。
・安定しない感情や、理性的でない自分の状態に嫌悪感を持ち、それがまた精神的ストレスになり、メンタルを病んでいく。

このように、慢性的なストレスが過多になると、感情の乱れ、行動の乱れ、副腎疲労、この3つが並列に起き、互いに作用し合う負の連鎖が起きてしまうのです。

これが「おうちストレス」からメンタル不調に発展するメカニズムです。

おうちストレスは「記憶力」も低下させる

扁桃体の暴走は、海馬の萎縮も引き起こします。

海馬は記憶を司る脳の部位で、この機能が優秀なほど記憶力が高いといわれます。ですが、扁桃体はストレスを感じると海馬にまで刺激を送ってしまいます。扁桃体からの刺激によって海馬は萎縮し、記憶力も低下し、反対に扁桃体が肥大していくのです。

扁桃体が海馬に刺激を送ってしまうのは、不安を感じる出来事が起きたときに、その一連のエピソードを記憶するためです。再度おなじような事態が訪れたときに対応するための、脳のはたらきです。

このはたらきは、猿を使った動物実験で明らかにされました。

猿に鐘の音を聞かせ、その後、電気刺激を与えるのを繰り返したところ、やがて猿はカンカンカンという鐘の音が聞こえると体が縮み上がるようになりました。

杉岡充爾『おうちストレスを溜めない習慣』(クロスメディア・パブリッシング)
杉岡充爾『おうちストレスをためない習慣』(クロスメディア・パブリッシング)

海馬に「この音が聞こえると電気が流れる」という経験が記憶され、そのための防御反応として体が緊張状態に入ったのです。

この記憶づけを指示するのが扁桃体です。扁桃体が海馬に刺激を送って、「いまストレスを感じたから、この経験を覚えておいて!」と伝えるわけです。

これのなにが問題かというと、不安の経験を記憶した海馬は、次に似たような状況に陥ったときに「前にも同じような事態がありましたよ」と、今度は海馬から扁桃体に刺激を出してしまうのです。

実際に不安を感じる状況でなくても、過去と同じ状況になっただけで海馬が勝手に反応して扁桃体に刺激を送り、コルチゾールが分泌されてしまいます。

コルチゾールの過剰分泌は副腎疲労につながりますし、海馬が不安経験ばかりを記憶していくと、本当に大事なことが記憶できなくなってしまいます。扁桃体が過剰に作動すると、こういった悪循環も起きてしまうのです。

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