新総裁は総裁選と衆院選のジレンマを克服できるか
無党派層の多くが野党系候補へ投票したことは、野党系が全勝した今春の衆参の補選、再選挙での出口調査でも確認されています。無党派層から支持を得た都民ファーストが健闘した東京都議選でも、投票した無党派層の投票先は立憲民主党15%、共産党16%と、合計すれば自民党の15%に対し倍となっていました(都民ファーストは25%。朝日新聞の出口調査より)。
そもそも、冒頭に述べたように野党の支持率はあまり高くありませんから、「ブーム」「追い風」と表現された2009年衆院選のような野党への期待の高まりが生じていないことは確かです。しかし、支持政党を持たないような層から野党統一候補が選ばれる結果が続いていることも確かです。メディアの予想以上に無党派層から野党候補に票が流れ込んだ横浜市長選の結果は、そうした流れが定着し、強まっていることを示します。
来る衆院選では前回よりも野党分立状態が収拾されるため、立憲民主党を中心とする野党候補に無党派層の票が集まりやすくなります。政権交代が起きる程度かはともかくとして、与党である自民党と公明党が議席を減らす可能性が高いと考えられます。
このような現状認識を踏まえてみれば、首相の降板と総裁選は、無党派層を野党から少しでも奪い返すための自民党の一手と解釈することができるかもしれません。もっとも、ただリーダーの顔を変えただけでは、大した変化は起きないでしょう。内閣支持率が急落しても自民党支持率が大きく下げないのと同様、総理・総裁が代わって内閣支持率が多少上がっても、自民党支持率が急上昇するようなことは想定しにくいためです。
そうでなくとも、首相降板と総裁選をめぐる混乱した党内政局は自民党の末期感を印象付け、自民党への支持や評価に良い影響は与えません。したがって新総裁は、これらマイナス要素を覆し、野党に流れつつある無党派層を引き留め、来る衆院選で与党の議席数を維持するという困難な課題への対応を求められることになります。
そのために新総裁は、支持政党を持たないような政治から遠い人々にも目を向ける必要があります。しかし、総裁選で勝ち抜くためには、まず党内の政治家や党員に目を向ける必要があります。このため、党内競争で勝ち抜こうとして党外競争ではかえって弱くなることもありえます。たとえば、総裁選で勝とうとして有力政治家に擦り寄った政策を掲げれば、衆院選で無党派層などからの集票が覚束なくなる可能性が強まるのです。新総裁次第で、政権交代の可能性も出てくるのです。
総裁選と衆院選、自党支持者と無党派層をめぐるこのジレンマを、各候補がどのように克服していくのか。これが、今度の自民党総裁選の見どころになると思います。