「業務フロー」を見直さずにデジタル化を進める
問題は、仕事の仕方を変える変革ができないまま、業者任せでデジタル化だけを行うため、利便性の低いシステムが完成。結局、国民が使わないため、元の木阿弥、紙での申請に舞い戻るといった事態が繰り返されているのだ。みずほもシステム障害が起きても、顧客への情報伝達がギリギリまで行われないなど、業務フローに問題があったことも認めている。つまり、みずほも日本国も地方自治体も同じ問題、業務のやり方、業務フローを根本から見直せないところに日本が「デジタル敗戦」と言われる状況に直面している根本問題があるのだ。
政府は9月1日、デジタル庁を発足させた。菅義偉首相が就任時に打ち出した「目玉政策」だ。日本の行政のデジタル化が遅れている背景には、「複数の省庁に分かれている関連政策を取りまとめて、強力に進める体制として、デジタル庁を新設」することが必要だとし、「省庁の縦割り打破」をぶち上げた。
霞が関にとって都合がいい「デジタル監」
それから1年、曲がりなりにもデジタル庁はスタートしたが、期待どおりの機能を担うかどうかは心許ない。強力なリーダーシップをもって政府のDXを推進する民間人を据えるとしていた次官級の「デジタル監」には紆余曲折の末、石倉洋子・一橋大学名誉教授が就いた。政府の審議会委員や数多くの企業の社外取締役を務めた72歳。デジタルにはまったくの素人である。かといって官僚機構の仕事の仕方を組み換えられるほど霞が関に精通しているわけでもない。DXのDもXもリーダーシップを執れる人物では、どうやらなさそうなのだ。
残念ながら、仕事のやり方を「変えたくない」霞が関にとっては御し易い人物が就いたということだろう。これまでも日本政府はIT(情報通信)化を掲げてきた。2000年に「内閣官房IT担当室」を設置、その後「内閣官房情報通信技術総合戦略室(IT総合戦略室)」となった。民間出身の「内閣情報通信政策監(政府CIO)」も存在してきた。だが、20年経っても日本政府のIT化は遅々として進まず、新型コロナでその悲惨な実態が顕になった。明治以来の「お役所仕事」のやり方から霞が関の現場が脱却できないことが最大のネックだった。