「ビジョンなんて使えない」のか?

さて、本稿では、プレゼンのゴールであり、ビジネスのゴールでもある「ビジョン」について深く話を進めてきました。

ただ、皆さんも心の中でうっすら思っていることがあるでしょう。それは、結局のところ、「ビジョンなんて使えない」「自分の仕事とは関係ない」ということ。

いかに「ワクワクする未来」であったとしても、「日々の業務やプロジェクトにおいて、ビジョンに立ち戻ることは考えづらい」と思う人も多いでしょうし、「会社が『大事だ』と言うから、仕方なく『大事そうに』ビジョンを扱っておこう」という人もいると思います。

ビジョンにとってもっともやっかいなのは、この「他人事」感覚です。この「他人事」感覚が払拭されないと、ビジョンをつくるときも「無責任」になるし、ビジョンが生まれても、「無関心」を決め込むことになるからです。

この「他人事」感覚をなくすためには「自分ごと化」するしかありませんが、それもまた、なかなか難しいことです。まず、無関心な人に関心を持ってもらうのが大変ですし、人がたくさん関わっているプロジェクトだと、それだけ思いも多種多様で共感することも違うからです。

でも、そうしてビジョンについて話し合ったり、関心を持ってもらうために悩んだりすることこそが、企業やプロジェクトが進化する上でとても大切なことだと僕は思います。それをしないのと、するのとでは、明らかに未来が変わってくるからです。

ビジョンは「つくり方」より「選び方」が勝負

僕はこれまでに、様々な企業で何度もビジョンづくりの難しさを体験してきましたが、同時にその悩みをクリアした企業やプロジェクトが大きく躍進する姿もたくさん見てきました。

ビジョンづくりに悩むことで、企業やプロジェクトにある本質的な課題を知ることができるし、ビジョンを生むことで、みんなの心が一つになり、力強く進めるようになるからです。

でも、実際にはどうやって、ビジョンづくりの悩みをクリアすればいいのでしょう? そんな声が聞こえてきそうですが、僕からの答えはひとつ。「選び方」を変えれば良いということです。

実は、ビジョンづくりで悩んだり失敗したりする場合、そのほとんどは、「ビジョンづくり」ではなく、「ビジョン選び」での失敗が原因です。誰でも、必死に考えれば、十や二十のビジョンの種は生み出せます。

でも、そこから選び出すのが難しい。過去の成功体験や思惑が交錯して間違った選択をしてしまいます。そこで僕は、自分流の「ビジョンの選び方」をつくり、それを実践することで、ビジョン選びを間違えないようにしてきました。

その方法とは「ビジョンへの3ステップ」。

①内語り②外語り③夢語りの、3つの議論から企業やプロジェクトを見つめ、その中心にあるものをビジョンとして選び取るやり方です。僕がビジョンづくりをするときは、ほぼこのステップで考えをまとめます。

そしてできるだけ、相手企業やプロジェクトのチームを巻き込んで話し、チームで決めていくようにします。そのほうが、結果的に社内に浸透するスピードが速まるからです。