思考を活性化する3つの「問いのパターン」
では、具体的にどのような問いかけをすべきなのでしょうか。ここでは、思考を活性化し、議論を生産的にする「問いのパターン」を3つ紹介したいと思います。これらの問いは、哲学者が世界の在り様や人間の思想を解釈する際に必ず問うことをメソッドとして抽出したものです。言わば、第一級の「解釈」の出発点となる問いをパターン化したものなのですが、こうした問いは、仕事や日常生活においても即戦力的に活かすことが可能です。
2.「例えばどのような事例を念頭に置かれているのですか?」
3.「それは、他のすべての事例に当てはまりそうですか?」
議論の核となる言葉の意味合いを確認する
[1の問いの技法:「「○○」という言葉で、どのようなものをイメージしていますか?」]
議論が進まない、またはまとまらない時に、だいたい悪さをしているのは「言葉の意味合いのバラバラさ」です。同じ言葉を使っていても、私たちはたいてい、それを別の意味合いで使っています。
このような場合は、まず議論の前提を整える必要があります。「言葉とその意味」は「コインの表と裏」です。コインの表だけを見るのではなく、その裏側をちゃんと確認し合う必要があるのです。
例えば、Aさんは「勉強=教科書の暗記」と捉え、Bさんは「勉強=教養のアップデート」と捉えているとしましょう。
このとき、「勉強という言葉で、どのようなものをイメージしていますか?」と「勉強」という言葉の裏側(意味合い)をちゃんと確認しなければ、いつまでも「社会人に勉強は不要だ/必要だ」という平行線を辿ってしまいます。
そのときに1の問いを投げかけると、お互いに前提にしていた言葉の意味に気づくことができます。そして、「なるほど、その意味合いなら、相手の主張も分かるな」と腑に落ちやすくなるのです。
主張に対して念頭に置いている事例を尋ねる
[2の問いの技法:「例えばどのような事例を念頭に置かれているのですか?」]
同じトピックについて議論していたとしても、お互いに念頭に置いている事例が全然別のものだと、全く議論が噛み合わないときがあります。
あまりにも相手と意見が合わないと感じたときは、そっと一言、「例えばどのような事例を念頭に置かれているのですか?」と問いかけてみましょう。
先ほどの勉強の例で言うと、お互いに「教養のアップデート」としての「勉強」の重要性というトピックについて議論していたとしても、教養を得る目的が「効率的な仕事のため」なのか「豊かな人生のため」なのかに応じて、そのアップデートの価値や方法は大きく異なってしまいます(前者であれば、ハウツー形式で教養を得る方法が尊重されますし、後者であれば、様々な教養に触れていく機会が重要になるでしょう)。そうすると、お互いの論調がなかなか噛み合わず、歯がゆい議論の場になってしまいます。
そんなときに、「実はこの前、教養をアップデートする社内勉強会に参加したのですが、その経験が非常に仕事に活きまして、例えば○○のときに……」などと話してもらえれば、たとえ最初は相手と異なる想定をしていたとしても、相手の主張が自然と腑に落ちるでしょう。
また、相手が具体的な事例を(実は)考えられていなかった場合には、「こういった事例を想定するとどうですか?」と問いかけるとなお良いでしょう。
議論の「抜け漏れ」を防ぐために、お互いに様々な事例を問いかけ合うのは、非常に有効な手段です。そして、相手の意見に違和感を覚えるという経験は、自分の想定できていない別の領域を表していることに他ならないのです。