メッシュの位置を確認すると、「へえ、人間はこんなところに大量に汗をかくんだ」とわかる。お腹の部分より、背中に汗をかく。
汗をかきにくい構造で、しかも、早く乾くし、水をはじくという。いずれも新合繊の特徴で、加えてメッシュの位置と数で通気性を向上させ、新合繊の特質をさらにブラッシュアップしてある。
ポディウムジャケットを着た途端、中学生の頃、真夏に木綿の丸首シャツと白いトレパンで校庭をぐるぐる走ったり、うさぎ跳びをしたりして、全身が汗だくになったことを思い出した。あの頃のスポーツウエアと現在のそれはまったく別の種類の衣料だ。
さて、話はポディウムジャケットの着心地に戻る。一部のパラリンピック選手にとって動作が楽になるのが新感覚のファスナーだろう。
ファスナーを閉めるのは通常、両手だ。ところが、アシックスのポディウムジャケットについているファスナーは片手でも閉められるし、開くことができる。そして、金具の摩擦を低減してあるので着脱がスムーズだ。量産品に採用されたのは世界で初めてだ。手に障がいがある選手でも脱いだり着たりが楽に行えるようにという配慮である。
市販価格は5万円弱でも「リーズナブルです」
そんなポディウムジャケットのレプリカの市販価格は5万円弱だ。
「結構な値段ですね」と伝えたら、松下は「いや高くはありません、リーズナブルです」。
「非常に限られた数を作っているからですし、また、量産するとはいっても何万枚という生産ロットで作っているわけでもないんです。そして、この価格は過去の大会のウエアとほぼ同じです」
市販されるレプリカについてだが、過去の大会でも、主に買っていくのはインバウンドの観光客だという。海外からやってきた観光客の需要が非常に高く、彼らはこれを買って、高揚した気分で自国の選手を応援する。ただ、今回の大会では海外からの観光客は参加できない。その分、国内の観戦客が買っていくのだろう。
いずれにせよ、スポーツウエアには機能だけでなく、気分を高揚させ、スポーツに没入させる役割もある。選手たちはそうした応援を受けて発奮する。記録を向上させる。ウエアがスポーツや運動に占める位置はわたしたちが考えるよりもはるかに広く深い。