警備業界はロボットが活躍できる手つかずの土壌
最初にどの分野から参入していくべきか。ふたりが着目したのが、人手不足が特に深刻な問題となっている警備の仕事だった。
厚生労働省がまとめた全国平均の有効求人倍率を見ると、シークセンス創業直後の2016年12月で、全職業の平均が1.36倍なのに対し、警備業界は7.22倍と、きわめて高い状態にあり、しかも年々上昇している。これほど売り手市場なのに、人が集まらないのはなぜか。理由のひとつは、警備員の給与水準が低いことだ。中小零細企業が大半を占めることもあって、全職種平均の3分の2以下にとどまっている。警備員の大半を占める契約社員は、勤続年数が増えても、給与は増えないことも多い。さらに労働時間が全産業平均に比べて月平均で20時間以上も長く、夜勤も多い。昼夜逆転の生活も珍しくない。加えて労働災害の件数も、全産業では減っているのに、警備業では逆に増えている。夜間に長時間で低賃金、しかも危険な労働環境となれば、警備員不足が深刻化しているのもうなずける。
ロボットなら充電とメンテナンス以外は24時間、365日働き続けることができる。大規模施設の増加で警備を担当するエリアが拡大し、チェックポイントが多くなると、人間の警備員には肉体的にも精神的にも負担が増す。ミスも生まれる。しかしロボットなら、決められた仕事を確実にこなすことができる。警備の仕事の中でも“機械的”な部分は、機械に任せたほうがうまくいくのだ。しかも「東京ビルメンテナンス協会警備防災委員会」が2019年にまとめた「人材不足対策調査研究警備ロボット調査研究報告書」によれば、会員アンケート調査で「何らかの形で警備ロボットを導入している」と回答した会社はわずか1.4%にすぎなかった。この分野はまだ手つかずの状態で、ビジネスチャンスは大きい。
ロボットの未来を変える大きな一手“5G”
5Gの利用可能エリアがまだ限定的なため、現行のSQ-2は5Gに対応していない。次世代機以降の対応となる。5Gについて黒田に聞くと「回線が太くなることは良いことです」と期待する。「SQ-2から大容量のデータを送付し、逆に防災センターからは画像を解析して判断し、指示を出す。これをクラウドで処理するとき、5Gは非常に重要になります。データ量が大きければ大きいほど、速ければ速いほど、いろいろなことができるのです」
大量の情報を処理するデータセンター、電力や水道などライフライン関連施設をはじめ、24時間監視が必要な施設は増え続ける一方で、減ることはない。そこでは大量の情報をSQ-2が扱うことになる。5G時代になれば、その処理が容易になるのだ。
ただし、5Gを含めた通信が使えない場合も想定しておく必要がある。「建物の隅など、通信状態が悪くなったり、途絶したりする場所がある限り、ロボットは通信できない環境でも動けるようにする必要があります。例えば通信状態が悪くなった瞬間、子どもが飛び出してきても、きちんと止まらなければなりません。すべてをクラウド化するのではなく、ロボット本体に相応の機能や能力を残さざるを得ません」
基本的な自律移動に関しては、通信できなくても機能しなければならない。「公道での利用は、現在はまだリスクが高すぎると考えており、ずっと先の課題です。しかし建物の外構部くらいなら、近く対応できると思います」