2016年に「ロボットの開発」で起業したふたり
シークセンスを創業したのは、明治大学理工学部教授の黒田洋司と、中村のふたりである。
このうち1965年生まれの黒田は、少年時代から船や飛行機が大好きで、大学では工学部で船舶海洋工学を専攻した。大学院で水中ロボットの研究に携わったことから、ロボットの設計や開発に取り組むようになった。その後、アメリカのマサチューセッツ工科大学で客員准教授を務めたり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)で小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトに携わったりする中で、起業を意識するようになった。
「大学では、何回失敗しようが、成功率が低かろうが、理論を証明できればよい。しかしロボットの産業化は、時代の要請なのです」そこで黒田の考えたのが、起業だった。黒田の専門は、移動ロボット工学である。自分で作ったロボットが、世の中で実際に使われるようになってほしいという思いもあった。黒田は、東京のシステム開発大手、TISと自律移動型ロボットに関する共同研究プロジェクトをスタートさせ、起業に向けた準備に入った。そんなとき、声をかけたのが、かねて個人的に知り合いだった中村である。
1977年生まれの中村は、大学時代にアメリカンフットボール部の主将を務めたこともあるスポーツマンだ。大学卒業後は、大手都市銀行や外資系証券会社のニューヨークオフィスに勤務したあと、コンサルタントとして独立した、財務や経営のスペシャリストである。技術関係は専門外で、最初は「ロボットには全然興味がなかった」という。しかし黒田と話をするうちに「汎用性が高くて、とてもおもしろそう」な事業だということがわかってきた。2016年10月、ふたりでシークセンスを創業し、中村が代表に就いた。社名はseek(能動的な「探索」)とsense(受動的な「感覚」)をかけ合わせた造語である。
ミッションは「世界を変えない」
日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに、減少に転じた。首都圏などでは人口の増加が続いているが、東京都人口統計課の予測では東京都の人口も2025年をピークに減少に転じると見られている。その一方で、増加の続く65歳以上の高齢化率は2018年のデータで28.1%と、世界第1位である。アメリカの15.8%や中国の11.2%のはるか先を走っている。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によれば、2060年の人口は8674万人で、ピーク時から4100万人以上も減少し、高齢化率は38.1%にも達すると見られている。日本の少子高齢化は、驚くべきスピードで進行している。
こうした状況を踏まえて中村が提唱したシークセンスのミッションは「世界を変えない」。世界をより良く変えることよりも、いまは世界を変えないことのほうが喫緊の課題だと中村は考える。
「社会が急速に縮小する中で、いま私たちが享受している豊かさや平和を、次の世代にどのように残していくか。そのために我々は、生産の効率を上げることにフォーカスすべきだと考えました。ロボットが戦う敵は“深刻化する働き手不足”なのです」