数学への苦手意識が産む間違った評価

年収に差はないとしても、数学ができる人(理系)に対する評価が高くなる傾向はあります。

実は、世界的にも、教授や研究者などのアカデミアで活躍している見識のある人でも、“数式”を見せられると、その数式で示されている研究がとても素晴らしいものであるという、間違った判断をしてしまうということが明らかになった事件があります。

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哲学の世界で、数式や科学的な用語を用いたり引用した研究論文が流行った時代がありました。その現象に対して、ニューヨーク大学の物理学者が、ある皮肉を込めた行動(『知的ぺてん』)を1996年に起こします。

数式が登場するだけで「素晴らしい論文」に見える

彼は、当時流行していた分野の代表的雑誌に、全く意味のない科学用語と数式をちりばめた論文を投稿しました。その結果、それがそのまま雑誌に掲載されたのです。(通常、研究論文を雑誌に発表するには、数人の専門家による査読と言われる審査を受け、厳重にその内容が吟味された上で、雑誌に掲載されるかが決まります。)

彼はのちに、自分がやったのは、引用を結びつけ、それらを褒め讃えるための無意味な議論をねつ造しただけで、論文中に使われた数式の無意味さは、すぐにわかるレベルのものであったと話しています。

つまり、有識者でさえ、数学に対するコンプレックスを持っていると、その正しさを理解・判断しようとせずに、その数式に対してただ賞賛をしてしまう、見せかけの虚構に騙されてしまう、ということを示した結果となりました。実際、数学ができないという人にとって、数式は脅威であり、できる人に対して無条件に降伏してしまうのでしょう。