数学に自信があると経済的に優位になる
一方、数学の能力に自信を持っていることが重要であることを示す研究もあります。オハイオ州立大学心理学部の教授が、4572人に数学のテストを実施しました。その時、数学能力に自信を持っているかのアンケートを実施しました。その結果、「数学能力が高くて数学に自信がある人」は「数学能力が高いのに、自信がない人」に比べて、年収に換算すると9万4000ドル(約1000万円)相当の経済的な優位性を持っていたことを示しています。ただしこれは、単純な年収ではなく、クレジットカードの使用状況やローンの有無、投資の運用状況などから総合的に算出した数値です。
さらに、全身性エリテマトーデス(SLE)の治療を受けている患者に対して、同様に数学のテストと自信に関するアンケートを行いました。その結果、SLE患者らの症状の勢いである疾患活動性が、「数学能力が高くて自信もある人」では低く、「数学のスキルはないが自信だけはある人」では、疾患活動性が高い割合が44%もありました。
これらの結果から、数学に対する苦手意識がない人は、数字を扱う問題に直面した時に諦めづらいことや、薬の効果とリスクを正しく理解して用法と用量を守ったり、健康保険などの制度を活用して適切な治療を受けたりできる傾向にあると指摘されています。
また、数学的スキルと失業率・生産性・健康の間には相関関係があるというOECDの調査結果があり、国民の数学の能力の低下は国際的な競争力の低下を意味するという見解もあります。
数学の能力や自信は40%が遺伝で説明できる
オハイオ大学が、約600人の双子を対象とした研究から、数学に関する能力や自信は、約40%が遺伝で説明できることを示しました。40%が高いか低いかは難しいところですが、残りの60%については、指導者や学び方といった環境によって、その能力や自信が決まっているのです。
数学が苦手な人では、数学が得意な人に比べて、脳の中の背側前頭前野というところの活動が低いことが明らかにされています。また、数学に苦手意識が高い子供では、脳の扁桃体という恐怖を感じるところの活動が高まることも示されています。
背側前頭前野という脳の部位を刺激すると、数学に対する苦手意識が減り、数学の能力が上がることがわかりました。ここでのポイントの一つは、数学に対するコンプレックスや不安感を減らすことに成功したということです。この背側前頭前野の活動が高まったことで、数学に対する不安を抑制できたためと考えられています。