正解がわからない中での決断
未知の出来事に対して、どの時点でどのような判断を下すことが正しいのか? これに対する正解を導くことは難しく、おそらく、歴史として振り返った時に、さまざまなことがやっと見えてくるようになるのでしょう。それでも、私たちは、「決定」をすることで前に進んでいくしかありません。
コロナ禍では、人種差別、イデオロギーの対立が顕在化し、ロックダウンや緊急事態宣言による経済的打撃も起こりました。そして今、私たちは、個人レベルではワクチン摂取の有無を決め、社会としては、いよいよオリンピックが東京で開催されることを決定しています。
何が正解かわからない中で、自分が信じていることを裏付けてくれる情報が提示されると、脳の中では、ドーパミンの分泌量が急激に増えることが示されている一方、自分の意見を無視して、集団の雰囲気や秩序に合わせる時(同調圧力)には、脳は社会的な痛みを感じていることが報告されています。今回は、集団における決定が非合理になる理由やその特徴と、同調圧力によって感じる脳の痛みについてご紹介します。
集団でこそおこる非合理な意思決定
極めて優秀な人たちからなる集団であっても、集団で意思決定を行うと、個人ごとに決定したものより、明らかに非合理的で劣った決定がなされる場合があることがわかっています。戦争の開始など含め、歴史的にも多くその例が見られるのですが、有名な例の一つに、1986年にアメリカで打ち上げられたスペースシャトル、チャレンジャー号の打ち上げがあります。打ち上げから73秒後に空中分解し、7名の飛行士が犠牲となりました(しかもそれが世界的に生中継された)。
当日の悪天候や冬という季節ならではの低気温、部品の欠陥があったことから、安全な発射が難しいと考え、チャレンジャー号の打ち上げを目前に、現場の技術者たちはチャレンジャー号の打ち上げを延期するように求めていました。NASAの上層部は、技術者たちの訴えを聞いたにもかかわらず、「絶対に計画は失敗しない」という信念をもち、信念に反する事実(計画決行に危険性があるという指摘)を無視したと言われています。「自分達は失敗しないだろう」という過信が存在し、外部からの忠告や都合の悪い情報を軽視しがちになる、あるいは、忠告をする雰囲気を作らせず少数意見を持つ者に対して、暗黙のうちに多数意見に合わせるように誘導し(同調圧力)、愚かな自信の下に愚かな判断を集団で下すことを、「集団浅慮」と言います。