日本社会の「同調圧力」は非常に強く、多くの人がそれに苦しめられている。同志社大学の太田肇教授は「ベルマーク集め、組体操、無遅刻無欠席、ママカーストなどは、どれも同調圧力の強さが背後にある」という――。

※本稿は、太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

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「ベルマークの売買はベルマーク運動の趣旨に反する」

閉鎖的で同質的な集団ほど同調のハードルが上がる。そして見直しは進まない。PTAや町内会はその代表格だ。

数年前、ベルマークをフリマアプリのメルカリに出品することの是非が話題になった。「ベルマーク」というと、私たちが子どものころに親が収集するのを手伝った記憶がよみがえる。

当時は学校の予算が潤沢でなかったこともあり、保護者たちが持ち寄ったベルマークで購入される運動具などの備品は貴重だった。またPTA会員の多くは専業主婦や自営業者だったため比較的時間の融通が利き、平日の昼間や休日に集まって集計作業が行われた。

しかし外で共働きする家庭が増えたいまでは、わざわざ集まって作業をするのを負担に感じる人が多い。メルカリへのベルマーク出品は、そうした負担を軽減する一助になると歓迎されたようだ。

ところがベルマークの売買はベルマーク運動の趣旨に反する、という理由で待ったがかかったという。また仕事を持つPTA役員の中には、ベルマークと同額の寄付をするので活動を免除してほしいと願い出る人もいるが、「金銭の問題ではなく子どもたちのために保護者が一緒になって支援するところに意義がある」と一蹴されるそうだ。

効率性を度外視した活動が未だに続けられている様子をみて、「まるで現代の千人針(※)だ」と皮肉る人もいる。

※大勢の女性が一枚の布に糸を縫いつけて作ったお守り。第二次世界大戦まで、さかんに行われた。

大人以上に同調圧力にさらされやすい子どもたち

似たような例は少なくない。京都市内のある地域では、夏休みに学区の中学生が遊泳禁止の川で泳ぐのを注意するため、PTAの役員が毎日炎天下で見張りをしている。役員自身が熱中症で倒れるリスクがあるにもかかわらず、「地域の子どもを守るのはわれわれの役目」という大義名分の前に、だれもが黙って従うしかないという。

大人でさえ圧力に抗することができないくらいだから、力のない子どもたちにとって同調圧力は耐えがたいほど重い。しかも教育の名のもとに、みんなで一緒に成し遂げることが尊いという共同体主義はいっそう強く唱えられる。そして、力をあわせてがんばることを認めてもらいたいという子どもたちの願望とも親和的だ。