コロナ禍をきっかけにテレワークが普及したことで、職場から離れた場所に移住するケースが増えている。だが、同志社大学の太田肇教授は「合理性よりも公平感や犠牲が優先される日本では、移住はおろかテレワークも定着しづらい」と指摘する――。

※本稿は、太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

居心地の良い場所
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生産性が上がったアメリカ、下がった日本

2020年春、突然私たちの身に降りかかってきたコロナ禍は、あらためて共同体型組織の弱点をさらけ出した。その一つが新型コロナウィルスへの感染防止のため、いわば「緊急避難」的に導入されたテレワークである。

東京商工会議所が第一次緊急事態宣言後の2020年5月29日~6月5日に実施した調査によると、67.3%の企業がテレワークを導入しており、宣言前の3月の26.0%から大きく増加している。とくに従業員300人以上の企業では導入率が90.0%に達した。

ところが日本ではテレワークの導入によって、生産性が低下したという企業が少なくない。日米の労働者それぞれ約1000人を対象にしたある調査によると、アメリカでは回答者の77%が在宅勤務移行後もそれまでと同等またはそれ以上に生産性が上がったと答えているのに対し、日本では「在宅勤務は生産性が下がる」という回答が43%で「生産性が上がる」という回答(21%)を大きく上回っている。(注1)

(注1)コンピュータ・ソフト会社のアドビが2020年に行った「COVID-19禍における生産性と在宅勤務に関する調査

とくに対照的なのはコミュニケーションへの影響であり、「以前よりコミュニケーションが取りにくい」という回答がアメリカでは14%なのに対し、日本では55%を占め、いかに対面的なコミュニケーションに依存した働き方をしているかを物語る。

時間外の電話対応、オンライン飲み会の強制参加…

生産性低下と並んで注目されるようになった問題に、いわゆる「リモート・ハラスメント」(リモハラ。「テレワーク・ハラスメント」ともいう)がある。

コロナ禍のもとで在宅勤務を経験した人を対象として行われた調査によると、「業務時間外にメールや電話等への対応を要求された」(21.1%)、「就業時間中に上司から過度な監視を受けた(常にパソコンの前にいるかチェックされる、頻回に進捗報告を求める等)」(13.8%)、「オンライン飲み会への参加を強制された」(7.4%)といった回答がかなりの割合にのぼっている。(注2)

(注2)東京大学医学系研究科精神保健学分野「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」2020年12月3日公開