社員の働き方を原則テレワークにして、全国どこでも働けるようにする会社も登場した。また人材派遣のパソナグループが本社機能の一部を兵庫県の淡路島へ移転し、大半の社員を異動させると発表して話題になるなど、会社ぐるみで地方へ移転する動きも出てきている。
地方に移住すれば通勤地獄や都会の喧噪から解放され、自然に恵まれた環境の中で働ける。休日には家族で釣りやサイクリングに出かけたり、友人たちとバーベキューを楽しんだり……。そんなバラ色の夢を抱いて地方暮らしを始める人が増えてきた。
閉鎖的な共同体に溶け込めず…
ところが実際には、そのような夢が断たれるケースが少なくない。
地方への定住促進プロジェクトに関わる人たちによると、せっかくIターンなどの形で移住しても、比較的短期間のうちに都会へ戻ってしまうケースが後を絶たないそうだ。主な理由は、仕事上の不都合や生活の不便さなどより、地域の風土に溶け込めないことだという。
地方では人びとがその地域に定住しており、幼稚園や小学校から大人になるまで一緒というように人間関係が固定化されている。堅牢な共同体がそこに築かれているのである。したがって大人も子どもも、外からやってきて仲間の輪に入るのは容易ではない。
そのいっぽうで、定住する以上は地域の一員としての役割を果たすことが求められる。多くの地域では若者の流出が進み、地域の担い手不足に頭を痛めている。そのため移住者にも地域のさまざまな役職が割り当てられ、休日のたびに会合や催しに駆り立てられる。しかも休日に家族でレジャーを楽しんだり、旅行に出かけたりする文化が根づいていないので、周囲から奇異な目でみられることもある。
要するに人の流動性が低い地域では、共同体への全面的な帰属が期待され、異質な生活様式に対する許容度が低い傾向がある。このようにテレワーク浸透の前には、職場と地域の両方で厚い共同体の壁が立ちはだかっているのである。
周囲を気にしすぎて休めない日本人
ただ、ここでも見過ごせないのは、合理性を超越した共同体主義の影響である。その点に注目してみよう。
日本企業で働いた経験のある外国人が異口同音に語ることがある。「日本人は会社にいることが仕事だと思っている」というのだ。それは「帰りにくさ」「休みにくさ」にもつながる。
日本では正社員の労働時間が主要国の中で突出して長い状態が続いており、その主な原因は残業の多さである。そこで正社員6000人を対象に行われた調査の結果をみると、残業時間を増やしていた要因のトップは「周りの人が働いていると帰りにくい雰囲気」だった。(注5)
(注5)パーソル総合研究所・中原淳「長時間労働に関する実態調査」2017年実施