やせすぎると病気になりやすく、死亡率も上がる
ところが、除脂肪体重と死亡率の関連は、U字型だったのです。つまり、除脂肪体重が少なすぎても多すぎても、死亡率が高かったのです。ということは、やせている人の死亡率が高いのは体脂肪量の影響ではなく、除脂肪体重が少ないこと、すなわちやせていることそのものの影響であると考えられます。
疾患別の死亡率を見ると、心血管疾患とがんでは、除脂肪体重と死亡率の関係はU字型で、除脂肪体重が少なすぎても多すぎても死亡率が高いというものでした。体脂肪量が少なければ心血管疾患などは発症しにくいはずなのに、やせていて除脂肪体重も少ないと、本来は低いはずの心血管疾患による死亡率も高くなっていたのです。
その理由はよくわかりませんが、がんに関しては、やせていると免疫力が低いことが、がんの発症に関連していると考えられます。免疫力が高ければ、私たちの体内で日々生じているがん細胞を、免疫細胞が退治してくれます。ところが、やせていて栄養状態が悪く、免疫力が低いと、がん細胞が増え続け、やがて発症してしまうのです。
さらに、呼吸器疾患による死亡率も、除脂肪体重が少ない人ほど高く、除脂肪体重が多い人は低いという結果でした。やはり、やせていると栄養状態が悪く免疫力が低いため、肺炎などの感染症にかかるリスクが高いからだと考えられます。
これらのことからは、体脂肪量が多いと死亡率が高いものの、脂肪を落とそうとして除脂肪体重まで落としてしまうと、かえって健康を損ねてしまうことがわかります。やせすぎると病気になりやすく、死亡率も上がるのです。
低体重だと認知症リスクも上がる
低体重による影響は、死亡率が上がるだけではありません。驚くことに、低体重だと認知症になりやすいというデータもあるのです。
山梨大学大学院准教授の横道洋司博士たちの、65歳以上の男女を2010年から平均5.8年追跡調査したコホート研究です。それによれば、適正体重(BMI18.5~25未満)の人を1とした場合の認知症発症率は、BMI25~30未満(日本の判定基準で肥満1度、WHOの判定基準で前肥満状態)の場合、男性で0.73倍、女性で0.82倍。適正体重の人よりも低い数値でした。ところが、BMI18.5未満(低体重)の人では、男性が1.04倍、女性が1.72倍と、適正体重の人よりも高かったのです。
女性の1.72倍が目立ちますが、男性はやせていてもいいというわけではありません。低体重の男性で脂質異常症(高脂血症)のある人は、適正体重で脂質異常症のない人に比べて、認知症発症率はなんと4.15倍。女性では、低体重で高血圧だと、適正体重で高血圧のない人に比べて、認知症発症率が3.79倍でした。脂質異常症や高血圧などの生活習慣病は、中高年になれば誰でも何かしらあると言ってもいい状態ですが、そこに低体重が加わると、一気に認知症発症率が高まるのです。
中高年になったら生活習慣病に注意するのはもちろんですが、それだけでなく、やせることにも注意するべきなのです。