暴力や自殺による死亡率にも関連性が…

しかも、低体重だと病気以外の死因につながる可能性も高くなる、という驚きのデータもあります。病気以外の死因とは、暴力による死亡、自殺、交通事故などで、そのうち交通事故はBMIと関連がありませんでしたが、暴力と自殺による死亡率は、BMIが低い人ほど高くなる傾向があったのです(図表1)。

【図表1】暴力、自殺による死亡率
出所=『ダイエットをしたら太ります。』

これは、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(英国)のクリシュナン・バスカラン博士たちが、英国国民保険サービス(国営医療サービス事業:NHS)のデータを用いて、16歳以上の男女を1998年1月から2016年3月までの間、追跡調査したコホート研究です。調査対象者は約363万人に及びます。非常に大規模であることと、調査対象の年齢の中央値が36.9歳であり、BMIと死亡率の関連を調べたほかの研究よりも若いことが特徴です。

研究では、暴力や自殺の原因を把握していませんから、亡くなった人にどのような経済的、職業・学業的、家族的、心理・精神医学的な問題があったのかは、わかりません。ただ、研究開始時点で精神障害(うつ病、躁うつ病、統合失調症)の人は除外したと記されていますから、これらが原因ではないと言っていいでしょう。

実は、自殺と低体重の関連については、以前から指摘されていました。

たとえば、マックマスター大学(カナダ)のステファン・ペレラ博士は、それまでの自殺関連の研究の中から体重、特にBMIとの関連を検討した研究を集め、複数の研究結果を統合して解析する「メタアナリシス」という手法を用いて、BMIと自殺にどれほど関連があるかを調べています。

個人の資質が低体重と自殺の双方に関連している可能性も

ペレラ博士がこの研究を行った2016年時点では、まだバスカラン博士たちの研究結果が出ていませんでした。すなわち、ある時点から未来に向かって調査を進める“前向き”コホート研究がなく、ある時点から過去に遡って調査を進める“後ろ向き”コホート研究しかありませんでした。

永田利彦『ダイエットをしたら太ります。』(光文社新書)
永田利彦『ダイエットをしたら太ります。』(光文社新書)

それが何を意味するかというと、これから発生する事象を観察する前向きコホート研究に比べて、過去のデータを利用する後ろ向きコホート研究は、データの不均質性などがあり、情報の信頼性に劣るという問題があるのです。つまり、研究の科学的価値が低いわけです。

そのせいかどうか、ペレラ博士の研究では、「BMIが増加するほど自殺既遂は減る。肥満だと自殺既遂のリスクは29パーセント減少し、低体重だと21パーセント増加する。BMIと自殺未遂や自殺念慮(死にたい気持ち)の関係は、研究ごとに結果が異なり、一定の結論は出ない」という結果でした。

これをどのように解釈するか難しいところですが、ペレラ博士たちは神経質さといった気質が、低体重と自殺既遂に関連している可能性を指摘しています。私の臨床経験からは、神経質さだけでなく、競争心の激しさなど、種々の原因が低体重と自殺の両方につながっている気がします。そのような個人の資質(気質)が、低体重と自殺の双方を生じさせてしまう可能性がある、ということです。しかし、これに関する研究はまだ少なく、結論に達するには、BMIと自殺や暴力による死との関連を含む前向きコホート研究が、いくつか出てくるのを待たなければなりません。

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