「手抜きではなく“手間抜き”」を打ち出した味の素冷凍食品

味の素冷凍食品の事例

ことの発端は、2020年8月4日にツイッターに投稿されたある女性のつぶやきだった。

疲れて辛かったため夕食に冷凍餃子を調理して出したところ、子どもは喜んだが、夫が「手抜きだよ。これは冷凍食品っていうの」と言った、という内容だ。このツイートにはさまざまな同情の声が集まった。

写真=iStock.com/bee32
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味の素冷凍食品株式会社(以下、味の素冷凍食品)の公式ツイッターアカウントもすぐに反応し、次のような投稿をした。「冷凍餃子を使うことは、手抜きではなく、“手間抜き”です」「冷凍食品を使うことで生まれた時間を、子どもに向き合うなど有意義なことに使ってほしい」

餃子に限らず、日本ではいまだ冷凍食品にネガティブなパーセプションがある。美味しくいただける調理方法の研究が途上だったとき、あるいは、冷凍技術が今のように発達する前は、「冷凍もの」と言えば「手軽だがあまり美味しくない食品」というイメージだった。

そしてくだんのツイートを投稿した女性の夫の言う「手抜き」という言葉は、「家庭料理は妻が愛情込めて手作りするべきだ」という「手作り信仰」の延長線上にある。

冷凍餃子売り上げナンバーワンの味の素冷凍食品としても、冷凍食品の持つこのようなネガティブなパーセプションを変えることは、自社だけでなく業界全体としても課題であると認識していた。

そして公式ツイッターの“中の人”自身、二人の子を持つ母だった。会社や業界が抱える課題半分、自分ゴトとしての本音半分のツイートであったのではと想像する。思いを込めた公式アカウントの投稿には44万いいね!がつき、「冷凍餃子」がツイッターのトレンドに入るほどの反響を呼んだ。

「不寛容な社会」の象徴になった“手間抜き論争”

こんなことは味の素冷凍食品としては初めての経験だ。

これがきっかけとなって、キー局やネットメディアでも大きく報道され、いわゆる「冷凍食品は手抜き? 手間抜き?」論争が巻き起こった。テレビ局などがこのネタに飛びついたのには、実は前振りがある。

このツイートが話題になる前、やはりツイッターで「母親ならポテトサラダくらい作れ」とスーパーの惣菜コーナーで高齢男性が女性に絡んだ出来事が話題となり、テレビのワイドショーなどで取り上げられたからだ。

テレビ局的にも、新たな「不寛容な社会」ネタだったという訳だ。味の素冷凍食品は、突然の取材集中に戸惑いながらも、これを冷凍食品のパーセプションチェンジを狙う施策のフェーズ1と捉え、まずはひとつひとつの取材に真摯に対応して投稿の意図を紹介していった。

これにより「冷凍食品は手抜き? 手間抜き?」論争の話題化を加速させていく。「冷凍餃子は“手間抜き”です」ツイートのあと若干ネガティブな反応も出たが、おおむね好意的に受け止められ、取材対応を続けることで好意と賛同の声を増幅させていった。

このような活動を地道に続けた結果、8月4日の発端のツイートから約1カ月で「手間抜きナラティブ」が広がっていき、その中の登場人物の一人としての「味の素冷凍食品の餃子」という状況を作り出すことができた。