緊張で姿勢が崩れる
しかしながら、私たちの姿勢は「美しい」「疲れにくい」「動きやすい」から程遠い……という悲しい現実があります。
ねこ背などの悪い姿勢は、生まれつきのものではありません。赤ちゃんの頃や幼い子どもの頃は、何もしなくても、まっすぐと自然な姿勢だったはずです。
いったいなぜ、姿勢が崩れてしまったのでしょうか?
一番の原因は、無意識の筋緊張です。自分では気づきませんが、誰もがそのクセに応じて、特定の筋肉を緊張させています。ソファでくつろいでいても、腰の筋肉や背中の筋肉は緊張しているものです。
精神的な要因が筋緊張につながっている場合もあります。たとえば、しつけの厳しい父親に育てられた人は、社会に出てからも「父親と似たタイプの人」の前に出ると、無意識に筋肉を緊張させてしまうことがあります。
他にも、異性と話をすると身構えたり、偉い人と話をすると緊張して身をかがめたり、といったクセがついているケースも少なくありません。みなさんの中にも思い当たる人が多いかもしれませんね。
なぜ無意識に筋肉を緊張させてしまうのでしょうか?
私たちは不安やプレッシャーを感じると、その不安定さを嫌って、なんとか安定させようとします。自分の体を支え、安定させるために、筋肉を緊張させてしまうのです。そのことで、むしろ不安定にしてしまっているにもかかわらず……。
これは、海で溺れかけたときに似ています。「まずい、溺れるかも」というとき、力んでじたばたすると、体は沈むわ体力を消耗するわで、結局溺れてしまいます。頑張るほど悪い方向へ行ってしまうわけですね。
でも、もがくのをやめて、水面にぷかぷかと体を浮かせたらどうでしょう。潮の流れに逆らわず、体力を温存できれば、無事救助してもらえる可能性が高まります。
思い込みを変えてみよう
羽生選手も、世界選手権やオリンピックなど大舞台に臨むときほど、意図的に体の力を抜いているように見えます(これは、一度直接お聞きしてみたいですね)。メダルがかかった大一番でも、羽が生えたようにスケートリンクの上を舞っているのは、みなさんもご存知のとおりです。
そうは言っても、トレーニングを積んだアスリートでもない私たちは、大事なときほど緊張してしまいますよね。そういうクセを治していくには、どうしたらいいのでしょうか?
答えは、私の専門でもあるアレクサンダー・テクニークが教えてくれています。アレクサンダー・テクニークは、「しようとしていないのに、無意識にしてしまっていること」をやめることで、筋緊張から解放していこうというアプローチです。
そのためには、あなたの姿勢が「美しい」「疲れにくい」「動きやすい」ものになるように、「間違った思い込み」を手放して、考え方を変えなければなりません。
具体的には、次の2つのように、考え方を変えていきます。
・姿勢をよくしたいときほど、力を抜いていく
・不安やプレッシャーを感じたときほど、力を抜いていく
これは、ふだんみなさんがやっていることの「逆」ではないでしょうか?
「姿勢をよくしろ」と言われれば、力を入れて胸を張る。ピンチのときは、体をかためて身構える。その逆をするべきだと、私は申し上げているのです。