診断書に「会社が原因」とあると、関係が悪化しやすい

翌月、私はBさんと産業医面談をすることになりました。面談では、苦手な同僚に対するさまざまな不満や同僚からの仕打ちを打ち明けてくれました。その内容がどこまで本当なのか疑問に感じつつも、つらい思いに共感を示しているうちに面談時間は終了してしまいました。

本人の了解のもと、人事担当者にその内容を伝えると、すでにBさんから話を聞いて、同じ部署の同僚たちにもヒアリングをしてくれていました。結果、パワハラと騒いでいるのは本人のみで、実際は仲の悪い2人がいつもいがみ合っていて、周囲はこの2人に迷惑しているという声が圧倒的だったとのことでした。

このように原因が会社であると主張し、公文書である診断書として提出してしまう社員には、会社もどこか一歩引いて接するようになります。

例えば人事は、後々裁判などになった場合に備え、休職にまつわる業務連絡のメールを書いたり、電話をしたりする際も、会社に落ち度がないよう注意深くなります。その結果、型式張った文章や話し方になります。すると、社員はコミュニケーションをぎこちなく感じるため、会社が自分を不要と考えているのではないか等々、疑心暗鬼になってしまいがちです。そのような環境では休職中も不安が消えず、治療に逆効果になってしまうのです。

写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです

「極端な発言」で上司や会社からのサポートが受けづらくなる

人は精神的に余裕がなくなると、考え方が狭く極端になります。また、誰でも本能的に自分を正当化する傾向があります。

ですから、精神的にきつい時に、相談相手が共感を示し理解してくれていると感じると、「自分の主張を100%受け入れてくれた」と考えてしまうことは、冷静に考えれば仕方ないことでしょう。

しかし、同僚や部外者にまでその発言がなされていると、時には上司や会社からのサポートが受けづらくなってしまいます。

ただ、社員に受け入れる心の準備ができていないときにそれを指摘しても、受け入れるのは難しいでしょう。そればかりか、正論を振りかざす相手に心を開いてくれることはなく、信頼関係が築けなくなってしまいます。

そうならないためにも、私は産業医として、社員との信頼関係がそれなりにあり、社員が必ずしも周囲は自分の考えに同意しているわけではないことに気づくか、受け入れる心の準備ができた時に、やんわりと伝えるのみです。