「息子の部屋を片付けてもらえてよかった。ありがとう」

父親は自分のスマホを取り出し、妻へ連絡する。そして「片付けてくれたお姉さんにお礼をいって」と言い、私にスマホを差し出した。

撮影=笹井恵里子
男性宅での2回目の作業が終わったところ。室内が見渡せるようになった。

私は電話口に向かって「はじめまして」と言い、1回目の作業に携わったこと、すべて片付かなかったので心配していたこと、けれどご実家に引き取られて安心したことを話した。

「前回、ペットとの思い出でケージも手放せなかったようですが、息子さんなりに一生懸命片付けを進めようとしていて……」

と言うと、年配の女性の涙声がした。

撮影=笹井恵里子
運び出した本などを処分するカート。

「ありがとう。私もすごい心配だったから。いい方たちにめぐりあって……。そんなふうに思ってもらえる方に息子の部屋を片付けてもらえてよかった。ありがとう」

数百万円の退去費用はすべて男性の父親が負担

笹井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中央公論新社)

電話を切り、スマホを返した。父親はそれを作業着のようなズボンのポケットにしまいながら、「ほんとにどうも!」と、笑顔で片手を挙げる。

「酒でも飲みながら新幹線で帰るわ!」

後ろ姿から、これから先息子との暮らしへの喜びが伝わってくる。80代とは思えない、元気な足取りだった。

このケースは、1回目の作業代約19万円、2回目の作業代約30万円、ほかに引っ越し費用や退去後のリフォーム代など数百万円をすべて居住者男性の父親が負担した。しかし、本人や親族が原状復帰の費用を支払えるとは限らない。次回は大家が全額を負担することになったケースを紹介しよう。(続く。第18回は7月8日15時公開予定)

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