賞味期限が10年以上も前の「墨汁」になったジュース
室内が片付いていないということで、大家からついに「退去命令」が出たとのことだった。前回の作業から男性の“その後”が気になっていた私は、ぜひとも作業に参加させてほしいとお願いをした。
室内は2カ月前と比べて随分片付いていた。
前回の作業費が19万4000円。作業後、「この残りの物をすべて撤去するとしたらいくらになりそうか?」と、当時のチーフだった溝上さんに尋ねると、「40万円前後」という答えだった。今回のチーフ、平出勝哉さんによると「今日は30万円」とのこと。見積額が10万円程度安くなっている。やはり部屋の物は大幅に減っているのだ。
家主の男性は地方にある実家に、必要な物を抱えて引っ越したという。
作業日には、男性の父親が新幹線に乗って駆けつけてきた。作業員一人ひとりに頭を下げながらこう言う。
「よくもまあこんなに10年20年でためたもんです。先日も雨の中、片付けたんだけど、ジュースなんて賞味期限が10年以上も前のものだから……」
私もその日の作業中に黒ずんだジュースを目にした。“墨汁”といっていい。缶の底にある賞味期限を見ると、「1997」年と記されている。
2LDKの一番奥に「同じ大きさの本」が積み上げられていた
「でも、前回より随分片付いていますね」
私が父親に話しかけると、「そうだね」とうなづきながら笑顔を見せる。
「よく自分でここまでやったなぁとも思いますね。まぁ、あいつは目が見えないから、こっちも『どれが必要か?』なんて尋ねるのが難しいし、自分でやるしかないんだけどね。息子の荷物を実家へ運んでくれた引っ越し業者の人も、だいぶ片付けてくれたみたいだよ」
臭いがするような生ゴミ類はほとんどないが、2LDKの一番奥に本が積み上げられていた。同じ大きさの本を揃えて積んでいる様子を目にして、住んでいた男性の本来の几帳面さを垣間見た気がした。
私を含む作業員が3人がかりで本をコンテナに詰める。ある程度、まとまったところで運び出す。本の山が高すぎて、少し運びだしてからが危ないと感じ始めていたところ、
「うわっっーーー」
本の雪崩がおきた。かがんで本をつめていた作業員の大枝祐明さんが、本が直撃したらしい自分の肩をさすっている。