「学び直し社会」がやってきた
上で述べた人たちは、20世紀初め頃までの人だ。「彼らが成功できた時代はいまとは背景が違うから、現代には通用しない」という意見があるかもしれない。
20世紀になってから、大組織で経済活動が進められるようになり、条件が大きく変わったことは間違いない。
学歴社会が形成され、高学歴でないと大組織の一員として仕事をすることが難しくなった。組織化、官僚化が進めば、独学だけで専門家集団のトップに立つのは、難しくなる。また、技術開発に多額の資金が必要となると、個人発明家の役割は限定的になる。
しかし、いま再び時代が変化しようとしているのだ。
「日本社会の勝ち組『現場の叩き上げ』が通用しなくなった根本原因」で述べたように、時代の変化が激しければ、学校の勉強だけでは仕事を続けていくことができない。独学を続けないかぎり、最先端に追いつけない。
また、大きな変化が起これば、これまで誰も手をつけていない世界が広がる。そこでは、独学で身につけた知識をもととして、新しい事業を起こすことができるだろう。
「学び直し社会」になったということは、独学によってコースを変えることが、前より簡単にできるようになったということだ。
学歴社会では、学歴によって人生のコースがほぼ決まってしまう。しかし、実力社会になると、どれだけ学んで能力を高めたかのほうが重要になってくるのだ。だから、上で述べた独学者たちの経験は、現代社会で再び重要な意味を持つようになった。
独学で、いつまでも仕事を続ける
独学で人生のコースを変えたことを、私は少しも後悔していない。
それどころか、私は、役所には入ったが、その後再び方向転換して、大学で教えることになった。そして80歳を過ぎたいまになっても、20年前、30年前と同じように仕事を続けている。
そこで必要な知識も、大部分は独学で学んだことだ。
独学によって、組織の定年の縛りに制約されることなく、いつまでも仕事を続けることができるのだ。