『「超」勉強法』など、“学び”に関する幾多の著作で知られる野口悠紀雄一橋大学名誉教授は、コロナ禍、そしてAI時代の今は「独学」ほど重要なものはない。大学で学ぶ機会のなかった人も、学部レベルの勉強は独学でも十分可能。勇気をもって一歩を踏み出そう、とエールを贈る。このたび多くの人に独学のすばらしさを伝えるべく、セブン‐イレブン限定書籍『人生を変える「超」独学勉強法』を刊行。自身の体験を通して「人生の可能性を切り拓く極意」を語る──。(第3回/全3回)

独学で「人生コース」を変えた

新著『人生を変える「超」独学勉強法』で最も強調したかったのは、「独学によって人生を変えることができる」ということだ。これは私自身の経験に基づいている。

私は、後で述べるベンジャミン・フランクリンやエイブラハム・リンカーンのような「完全独学者」ではない。彼らは、学校に通うことができず、ほとんどすべてを独学で勉強した。

それに対して私は、学校で勉強を続けられたので、すべての知識を独学で身につけたわけではない。

ただし、少なくとも、独学によって人生コースを変えたことは間違いない。これは、決定的に大きな方向転換だった。これがなければ、私の人生コースはまったく違うものになっていたはずだ。

強さを示す大人の女性
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思い描いた進路が自分に合わない…

私は東京大学工学部の応用物理学科に在籍していたのだが、4年生になってから、方向転換をしたくなった。

そのきっかけは、夏休みの企業実習だ。ある大手電機メーカーの中央研究所に1カ月ほど通ったのだが、「こうした仕事は自分に向かない」と実感した。

そして、「もっと視野の広い仕事がしたい」と強く望むようになった。応用物理学の知職を活用する仕事でなく、経済学を活用する仕事につきたいと思ったのだ。

法学部や経済学部に学士入学することも考えたのだが、それだけの回り道をする余裕が経済的になかった。そこで、工学部の大学院に進学し、実験や論文作成をするかたわらで経済学を勉強し、その関係の仕事につけないかと思った。

そのためには、「経済学部の卒業生と同程度の経済学の知識を持っている」ことを示す証拠が必要だ。それを獲得するには公務員試験を受けるのがいちばんよいと思い、経済職の公務員試験を受けることにした。