期待が大きい一方で、研究の進展を妨げるのが資金不足だ。特にコロナウイルス研究には助成金が下りにくいと言われてきたが、今回のコロナ禍でそれも変わりつつある。米国立衛生研究所(NIH)はコロナウイルスのユニバーサルワクチン開発を重点的に支援する方針を発表。米議会が可決した約2兆ドルの新型コロナ対策費にも10億ドルのワクチン開発費が盛り込まれ、民間の財団なども開発支援に乗り出している。

ウイルスが侵入すると、人体はその表面の特異的な形状を認識して、それに合う抗体を作る。抗体は細胞レベルの衛兵のようなもので、ウイルスを見つけると素早く結合し、他の免疫細胞が出動するまで抑え込む。

免疫系はウイルス粒子の形状のごく一部を記憶し、それを目印にする。大半のウイルスは遺伝物質をタンパク質の殻で包んだ粒子の形を取っているが、さらにエンベロープと呼ばれる脂質の膜で包まれたものもある。

コロナウイルスもエンベロープを持ち、そこにスパイクと呼ばれるトゲ状のタンパク質が突き出している。このトゲが宿主の細胞表面の受容体に鍵と鍵穴のような関係で結合すると、感染が成立する。スパイクは感染に不可欠の役割を果たす一方で、ウイルスの「アキレス腱」ともなる。

スパイクタンパク質を人工的に合成

NIHのワクチン研究センターで呼吸器感染症のワクチン開発を指揮しているグレアムは2010年代初め、博士研究員(ポスドク)だったマクレランと共に小児に重篤な症状を引き起こす風邪のウイルス、呼吸器合胞体(RS)ウイルスのワクチン開発に取り組み始めた。

だが開発は容易ではなかった。というのも、RSウイルスのスパイクタンパク質には形を変える能力があるからだ。形が変わると、抗体はスパイクをうまく捕捉できなくなる。

この問題を解決するため、マクレランとグレアムは、RSウイルス表面のスパイクタンパク質を人工的に合成する技術を開発した。この合成スパイクの遺伝子には、変形ができなくなるよう手が加えられている。1つの形状しか取れないということは、体内でそのスパイクタンパク質に対する強い抗体が作られる可能性が高くなるということだ。

実際、グレアムがこの技術を使って作ったワクチンをサルに注射したところ、見たこともないくらい強力な免疫反応を誘発することができたという。