DAVID VEESLER, UNIVERSITY OF WASHINGTON
ワクチン開発のカギを握るコロナウイルスの特異なスパイクタンパク質

VBIワクチンが挑むのは、病原体に酷似したタンパク質を設計し免疫系に送り込むテクノロジーの開発だ。研究には、過去数カ月で数千万ドル規模の資金が集まった。この技術を使ったワクチンは南ア型の変異株にも効果があり、しかも接種は1回で済むという。臨床試験は年内にも開始される見込みだ。

マウスを使った実験ではワクチンがSARS、MERS、新型コロナウイルスに対して免疫反応を誘発し、さらに風邪の原因の42%を占めるコロナウイルスへの効果も実証された。「ウイルスのスパイクタンパク質が赤、青、黄色の三原色だとしたら、実験はオレンジ色に対する中和抗体も作れることを証明した」と、ジェフリー・バクスターCEOは言う。

NIHのグレアムも汎用性の高いワクチンの開発を目指す。彼が5年前からタッグを組んでいるのが、ワシントン大学で構造タンパク質を研究する生物学者のニール・キング。キングは自己組織性を持つナノ粒子をカスタマイズする技術を考案した。

五角形と六角形のタンパク質がモザイク状に組み合わさった粒子は、いわばナノの世界のサッカーボール。コロナウイルスワクチン用のナノ粒子は、表面から20種類のタンパク質が突き出ている。突起は全て形状が異なり、おのおのがSARSやMERSのスパイクタンパク質と似ている。ワクチンとして体内に入ったナノ粒子は免疫系を訓練し、突起の形が近いスパイクタンパク質を片っ端から攻撃することが期待される。

新兵器は「サッカーボール」

キングはデータ分析を使い、それぞれ独特なスパイクタンパク質を持つコロナウイルスに対してどの突起が免疫反応を誘発する可能性が高いかを判断する。

コロナ禍以前から、キングとグレアムはナノ粒子型ワクチンのマウス実験を行っていた。実験用のナノ粒子にはSARS、MERSのほか一般的な風邪の原因のコロナウイルス4種のスパイクを装備した。うまくいけば新しいコロナウイルスが出現しても、そのスパイクタンパク質が6種類の突起のうちの少なくとも1つと十分に似ていれば、免疫系が危険物と見なし攻撃してくれる。

「このアプローチが成功すれば、広い範囲で防御効果を持つワクチンが完成する」と、キングは言う。「そんなワクチンを私たちは必ず作ってみせる。後は血のにじむ努力と……研究資金の問題だ」

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
【関連記事】
「ちょっとだけ異常値の人がヤバい」気づいたときには手遅れの"沈黙の病"をご存じか
たった4分でワクチン接種完了…トヨタが作った「豊田市モデル」のすごいやり方
ワクチン輸出国だった日本が、「輸入ワクチン頼み」に落ちぶれた根本原因
中国の"妨害"に遭い…日本からのワクチンに大喜びした台湾の深刻な状況
「台湾外しを認め、コロナ流出説は不問に」WHOは中国政府の傀儡となってしまった