昨年春、マクレランは改良版のワクチン設計手法を発表。合成スパイクの構造に追加で多くの変化が加えられ、さらに変形しにくくなった。これにより、より強い免疫反応が得られる可能性がある。

これは、途上国で一般的なインフルエンザワクチンを作るのに使われている既存インフラでの製造が容易になることを意味する。ワクチン接種が進んでいない多くの国々が抱える供給不足の解決にもつながるかもしれない。ベトナムやタイ、ブラジル、メキシコでは新しい技術を使って作られたワクチンの臨床試験が始まっている。

一方、ワクチンを製造する欧米の製薬会社は、新たに出現する変異株を既存のワクチンで確実に抑える方法を模索している。モデルナで感染症研究部門を率いるアンドレア・カルフィによれば、同社は変異株を注視してきた。「カリフォルニア、ニューヨーク、イギリス、南アフリカで確認された変異株の中で最も懸念されるのは、南アフリカ型だ」と、彼は言う。

南ア型の変異株はスパイクタンパク質の形状を変えることで抗体に認識されなくなり、ワクチンの防御を擦り抜ける恐れが最も高い。モデルナは南ア型に対して臨床試験を行い、3つのアプローチを試している。

ユニバーサル型が最強の防御策

いずれも被験者は2回のワクチン接種を終えている。体内の中和抗体が増えることを期待して3回目の追加接種を行うのが、まず1つ。南ア型のスパイクタンパク質に合わせて手を加えた修正版ワクチンを打つのが2つ目。既存のワクチンと修正版の混合接種が第3のアプローチだ。

だが長い目で見れば、あらゆるコロナウイルスに対応できるユニバーサルワクチンを開発するのが最強の防御策だろう。

マクレランは複数のコロナウイルスが保存しているとみられるスパイクタンパク質の一部を特定した。だが抗体を獲得するまで形状が変わらないようにタンパク質の構造を安定化させる方法については、実験が始まったばかりだ。

成果はほかの研究室でも上がっている。なかでもマサチューセッツ州ケンブリッジに本拠を置くバイオ企業VBIワクチンの取り組みは、臨床試験に向け準備が着々と進む。