ただただ「かっこいい」と繰り返した

私はしばし、言葉を失っていた。

「かっこいいだろう」
「うん、かっこいい! かっこいい!」
「そうだ、かっこいいんだ」
「かっこいいなあ。かっこいいなあ」

『1970年代のプログレ 5大バンドの素晴らしき世界』(ワニブックス)

まるでバカだが、今どきの若者が何にでもかんにでも簡単に付ける「超」だの「すっげー」だの「やばい」や「くそ」(何と誉め言葉として使っている)だのの形容詞を持たない2人は、ただただかっこいいかっこいいと繰り返すのだった。

アルバムの内ジャケットには、広大な湖から青々とした清流が下界に流れ落ちる、この世のものとは思えない美しい景色が描かれていた。裏表紙には、5人のバンドメンバーとプロデューサーという肩書きの人物の写真が印刷されており、これがまた6人が6人ともかっこよかった。少女マンガで描かれる白馬に乗った王子様並みにハンサム揃いな上に、着ている服も、ポーズも、そしてまた「リック・ウェイクマン」とか「ビル・ブラッフォード」といった彼らの名前も。ともかく何もかもがかっこよかった。

翌日さっそくレコード店に走った

翌日、さっそく私はレコード屋に行って、そのアルバム『危機』(“Close To The Edge” 1972年。イエスの第5作。「危機」はそのタイトル曲、18分45秒)を買った。以来、文字通り擦り切れるまで、レコードをかけすぎてパチパチパチというノイズだらけになるまで聴いて、後年もう1枚同じレコードを購入することになる(そのあとCDも何枚も買いました)。

「N君、イエスには本当にまいった。もっとプログレのレコードを聴かせてくれ、頼む」

プログレッシヴ・ロック(Progressive Rock)が「進歩的なロック」を意味することは辞書を引いて確認していた。プログレと縮めて呼ぶのがいかにも通らしくてかっこいい。友人Nには2つ違いの兄がいて、今から思えば田舎の高校生にしてはなかなかにませていたのだろう、プログレをはじめ外国のロックのレコードをたくさん持っていた。N君というより正確にはN君の兄が、私の運命を変えた恩人なのである。

以上が、48年前のあの日、初めて「危機」を聴いた時の記憶である。驚くべきことに、この曲が私に与えてくれる「心地よさ」は、あれから数えきれないほど聴いてきた今でもそれほど変わっていない(さすがに「驚き」だけはなくなったのだが、それでも聴くたびに何かしらの発見がある)。

ともかく私は、こうしてプログレに出会ってしまった。そして実はこの文章の中にプログレの特徴、聴き方・作法や、時代の空気感が表れていると思うのだ。