再現! 名曲「危機」の18分45秒
以下、「危機」をご存知の方ならわかってもらえるだろう、私がこの曲を初めて聴いた時の、感じたこと思ったことの再現である。
……鳥のさえずり、川のせせらぎの音が少しずつ高まっていって、突然、大音量のバンドサウンドに突入した。バンド演奏はこれまでに聴いたことのない種類のもので、ギターが奏でるメロディも、ドラムとベースが作り出すリズムも、まったくわけのわからないものだった。
すると「アー、タッ」「アー、タッタッ」というコーラス(これはいったい何だ?)をきっかけに曲調が変わり、ようやく「歌」が始まった。ここまですでに3、4分たったろうか。こんなに長い時間歌が出てこないのにも驚かされる。軽快で気持ちのいいメロディだが、ボーカリストの声は男なのに女の声のように高く、ちょっと掠れた妙な声質だ。
バックのドラムやベースの演奏は相変わらず奇妙(下手くそという意味ではない。たぶんものすごく上手だと思う)だし、どういう楽器なのか知らないが「ピヨピヨピヨピヨピコピコピコピコ」という音がずっと背後で鳴り続けている。
こうしてテーマらしき歌が終わると、今度は荘重なオルガンをバックにゆっくりした歌が始まった。さっきのテーマらしき歌のバリエーションのようである。この部分は主旋律とコーラスの掛け合いがとてもきれいだ。
鍵盤楽器が高らかに響きわたってこのパートが終わると、再びフルバンドの演奏に突入し、最初に聞いた「歌」(要はこの曲のたった一つの歌である)が、もう一度リズムを変えて演奏される。さっきよりもっともっと速く、もっともっと強くだ。
そうして最後の最後に、背筋が震え胸がキューッとうずく瞬間が訪れた。疾走してきたリズムがぐぐぐぐぐっとゆるんだかと思うと、曲全体のなかでもっとも親しみやすく、切なく、甘酸っぱいサビのメロディが、これまでになく鮮烈なコーラスを伴い再現されたのだ。
その心地よさをどのように表現すればいいだろう。
真夜中に高い高い岩壁を登っていって満天の星をいだく頂上に頭をつっこみ見上げた瞬間の達成感とでも言おうか。高い高い滝の上からはるか眼下の滝つぼに向かって身を投じた刹那の浮遊感とでも言おうか。ともかく、レコードに針を下ろしてから20分近くかけて溜めに溜めてきた何物かが解き放たれる、信じがたい快感だった。
あまりのカタルシスに腰がくだけたようになっていると、音楽は冒頭と同じ、鳥のさえずりと川のせせらぎの音に包まれて終息した……。