尖閣諸島と台湾を交換条件にするのは対等な取引とは言えない

とは言え、バイデン政権は就任後、トランプ前大統領がめちゃくちゃにした内政と外交の立て直しを急ぎ、新型コロナウイルス感染症対策と成長戦略に400兆円を投じることを決めたばかり。はっきり言って戦争どころではない。

単独で中国と対峙するのは困難を極めることから日本や韓国を引き込まざるを得ない。一方、日本の関心事は中国との間に争いがある尖閣諸島に対し、米国が日米安全保障条約の適用範囲と認めることにある。

日米共同声明では、米側が日本側の要求を飲んで《東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対する》と尖閣問題を取り入れた。その見返りとして《台湾海峡の…》が盛り込まれ、日米は尖閣、台湾の両方で連携することになった。

だが、日本側から見れば、無人の岩にすぎない尖閣諸島と台湾を交換条件にするのは台湾が重すぎて到底、対等な取引とは言えない。共同声明には他に米政権から同調を求められた項目も目立つが、菅首相はどんな覚悟をもって会談に臨んだのだろうか。

中国は、台湾問題を中国の主権や領土保全に関わる核心的利益として「譲れない一線」と公言している。日米連携による抑止が効果的に働くとは考えにくく、台湾有事に発展した場合、遠方にある米国と違って日本はたちまち巻き込まれてしまう。

自衛隊は中国を仮想敵にした多国間訓練を実施中

日本を守る自衛隊は今、何をしているのだろうか。

海上自衛隊のホームページより
平成31年度インド太平洋派遣部隊の護衛艦「いずも」艦内で会食する日米の幹部

すでに動き出していて、インド洋や南シナ海まで進出し、中国を仮想敵にした日米共同訓練や多国間訓練を繰り返している。この訓練について、海上自衛隊のホームページには「地域の平和と安定に貢献する」とあり、専守防衛の枠を踏み越え、インド洋や南シナ海の「平和と安定」の維持に努めるまでになった。

海外で活動する根拠は、安倍晋三政権下で制定され、2016年3月から施行された安全保障関連法だ。過去に政府が「行使できない」としてきた集団的自衛権の行使が解禁され、米軍の後方支援もほぼ全面的に実施可能となった。

安全保障関連法が施行されて5カ月後の2016年8月、当時の安倍首相はケニアで開かれたアフリカ開発会議(TICAD)で、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を提唱した。

インド洋と太平洋でつないだ地域全体の経済成長を目指す構想だが、安全保障面での協力こそが本丸だ。巨大経済圏構想「一帯一路」を通じてインド太平洋や中東、アフリカ、欧州で影響力を強める中国を牽制する狙いがある。