南シナ海での対潜水艦戦訓練では「本番」を前提

FOIPを受けて、海上自衛隊は翌2017年から米軍とインド軍の共同訓練「マラバール」に毎年参加するようになり、この年のマラバールには護衛艦「いずも」「さざなみ」と米印の空母が参加して、インド洋で対潜水艦戦を想定した訓練が行われた。

インド洋で行われた日米印の共同訓練「マラバール」
米海軍のホームページより
インド洋で行われた日米印の共同訓練「マラバール」

マラバールとは別に海上自衛隊は翌2018年から毎年、インド太平洋方面派遣訓練部隊を編成し、2隻から3隻の護衛艦部隊をインド洋と南シナ海に差し向けている。

派遣日数は2018年が65日間、2019年が72日間、2020年が41日間といずれも長期に及び、中国が内海化を図る南シナ海を中心に自衛隊による単独訓練、日米共同訓練、日米に豪州やインドなどが加わった多国間訓練を繰り返している。

注目されるのは、対潜水艦戦に特化して建造された護衛艦「いずも」と「かが」を交互に送り込み、2018年には潜水艦「くろしお」、2020年に潜水艦「しょうりゅう」を派遣して、南シナ海で護衛艦部隊との間で対潜水艦戦の訓練を実施したことだ。

令和2年度インド太平洋派遣部隊の訓練に参加した潜水艦「しょうりゅう」(左)
海上自衛隊のホームページより
令和2年度インド太平洋派遣部隊の訓練に参加した潜水艦「しょうりゅう」(左)

潜水艦を発見して攻撃するには、潜水艦が発する微弱なスクリュー音を探知するほかない。音の伝わり方は、潮流、海水温、塩分濃度などによって変化する。南シナ海で行われる対潜水艦戦の訓練は、この海域での「本番」を前提にしている。

平成30年度インド太平洋派遣部隊の護衛艦「かが」などの護衛艦部隊
海上自衛隊のホームページより
平成30年度インド太平洋派遣部隊の護衛艦「かが」などの護衛艦部隊

中国海軍の戦力をそぎ、南シナ海の内海化を阻止する狙い

南シナ海の海南島には、弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)はじめ、通常動力型潜水艦などが集まる中国海軍の潜水艦基地がある。基地の目の前の海域で行う海上自衛隊の対潜水艦戦の訓練は、中国の潜水艦への対処を想定していると考えるほかない。

南シナ海で潜水艦の探知訓練をするSH60対潜ヘリコプター
海上自衛隊のホームページより
南シナ海で潜水艦の探知訓練をするSH60対潜ヘリコプター

一方、米海軍は空母打撃群や単独行動する駆逐艦を南シナ海に派遣し、環礁を埋め立てて軍事基地化を進める中国に対して「航行の自由作戦」を展開している。

南シナ海に海上自衛隊や米海軍などの戦闘艦艇が入り込めば、中国海軍の艦艇の行動は制限される。海域に他国の潜水艦がひそむと分かれば、中国は対潜水艦戦を余儀なくされ、空母、駆逐艦、潜水艦などの資源を自由に活用できなくなる。

つまり、海上自衛隊の南シナ海派遣は、中国海軍の戦力をそぎ、南シナ海の内海化を阻止する狙いがある。昨年から豪州も加わったマラバールは、日米豪印4カ国の「QUAD」が連携して中国を封じ込める構図が鮮明になった。