「欧米では公的年金支給の70歳近くまでの引き上げに着手している」
公務員の定年延長が確実となった今、民間企業の定年延長も秒読みの段階に入ったといえる。先に述べたように「公務員優遇批判」の世論が高まれば、その時期も早まるかもしれない。
その先にあるのがいよいよ公的年金の支給開始年齢の引き上げだ。実は2018年4月に財務省の財政制度審議会で公的年金の支給開始年齢を現行の65歳以上に引き上げる案が浮上し、メディアで話題になった。あわてた厚生労働省は65歳の支給開始年齢は引き上げない方針を示し、火消しに走った経緯がある。
しかし、2040年にかけて年金を受給する高齢者人口の増大とそれを支える現役世代の急減は確実とされている。
社会保障に詳しい自民党の大臣経験者の国会議員は「すでに欧米諸国では公的年金支給の70歳近くまでの引き上げに着手している。年金財政を考えると事情は日本も同じだ。できれば70歳に引き上げたいが、最初は70歳への引き上げを提起し、世論の反発を考慮して、落としどころは68歳だろう」と語る。
すでに外堀は埋められつつある。
70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする改正高齢法がこの4月から施行された。努力義務だが、政府のスケジュールでは第2段階として2025年度以降の義務化も視野に入れている。
年金の受給開始を選択できる年齢を「75歳に繰り下げ」が意味すること
実は今回の70歳雇用の検討過程で政府内では「65歳定年を実現しておくべきだ」という意見もあったらしい。70歳雇用義務化の法改正の中で65歳定年が盛り込まれる可能性がある。
もう一つの外堀は、年金の受給開始を選択できる年齢75歳に繰り下げることで受け取る年金が増額される年金改革法が2020年の通常国会で成立した。
これも支給開始年齢を70歳に引き上げるための伏線とみることもできる。
ちなみに政府の年金財政検証(2019)によると、経済成長率が横ばいだと、65歳で年金支給が始まる人と同じ水準の年金をもらえる年齢は今の20歳と30歳が約68歳になると推計している。落としどころの68歳支給と奇妙な一致だ。年金支給開始年齢の引き上げの外堀は着々と埋められつつある。