「ここまできたら、なんとしてでもやりきりましょう」
俺は、単なる服をつくっているのではない。職業観の垣根をぶっ壊すためにやっているのだ。絶対にやり遂げてみせる。災難だったのは巻き込まれた人事の担当者、中村有紗。東大経済学部を卒業し、数ある大手企業の誘いを断り、新卒で僕の水道会社に入社をしてきた変わり種である。
長く水道の営業を担当したのち、人事として採用を担当していた。アイデアを口走ってしまったばかりに、巻き込まれてしまった。しかし、はじめはうんざりしていた彼女も、いつしか僕の熱にほだされたのか、そのうち感覚が麻痺してしまったのか、何やら楽しそうにのめり込んできた。
「社長、ここまできたら、なんとしてでもやりきりましょう」
やはり変わり種だ。
どこにも理想的な生地がないなら、もうつくるしかない。最後はとうとう自分たちで生地から開発することにした。社内のユニフォームのためにだ。もはや狂気の沙汰。相談を持ちかけた大手生地メーカーには、笑われ、あきれられ、当然相手にもされず散々に断られた。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。とある東海地方の小さな生地メーカーが、コンセプトに興味を持ち協力してくれることになった。
そこから1年以上かかり、試行錯誤の末、ようやくオリジナルの生地が完成した。機能性と着心地のバランスを追求した、僕たちが追い求めた世界で唯一の理想の生地だ。ユニフォームを変える構想からすでに2年近くが経っていた。
コンセプトムービーが大炎上
生地の開発にまで手を出したので、つぎこんだ額は、数千万円にものぼった。その間、いい加減もうやめてくれという役員や経理とは何度も衝突していた。正論はもちろん彼らのほうだ。その後、想像もしなかった展開が訪れる。完成した“スーツに見える作業着”を、社員が着て現場に出かける。
だぼっとした作業着と違って、スーツスタイルだと作業員の身だしなみや言葉づかいが自然によりよく改善されてきた。はじめはお客様や周囲には驚かれ、不思議がられるばかりだったが、次第に、あれ、どうしたの? いいじゃん! スマートでいいね、と徐々に評判になっていく。
ある日、取引先の日本有数の大手不動産会社から、こんな話が舞い込む。
「うちのマンションの管理人たちのユニフォームに導入したいんだ」
これは社会を変えるようなビジネスになるかもしれない。2017年12月、世界初ともいえる“スーツに見える作業着”を手掛けるアパレル会社「オアシススタイルウェア」を設立した。そして、その服を「ワークウェアスーツ」、略して「WWS」と名付けた。
宣伝のためにユーチューブにコンセプトムービーをつくって流してみた。するとたちまち、ネット上で騒がれた。評判になったのではない。大炎上してしまったのだ。ふだん作業着を着ている人たちからは、作業着をなめるな、と。スーツを着ている人たちからは、スーツを侮辱している、と。さらには多くのアパレル関係者からは、素人のアイデア商法だと笑われバカにされた。「これは服ではない、おもちゃだ」とまで言われた。