服装だけで敬遠されてしまった苦い思い出
だが、とあるクリスマス。イタリアンレストランで作業着姿の父と食事している時、同じ店で、ピシーッとスーツを着ている父親と食事をしている同級生と出会う。(あの時とっさに、ふと恥ずかしいって感じてしまったんだよなあ)就職活動をする大学生に向けた様々な企業が集まる採用説明会でのこと。
僕のつくった会社「オアシスソリューション」。オゾンを使って水道管のなかを殺菌洗浄する特殊な工法で、成長してきた。全国展開も達成した。社名もIT企業のように今どきだ。通りすがりの学生になんの会社ですか、と聞かれ、僕は待ってましたとばかりに、「水道管メンテナンス事業だ。急成長しているよ」誇らしげに答えると、学生が軽く失笑しながらこう言った。
「えっ? 水道管? なんか地味でダサいっすね。作業着とか着るの無理っす」
実際、若い社員の採用には当時もの凄く苦戦していた。なんだか悔しかった。そんなにホワイトカラーって偉いのか。ブルーカラーは職業的に2軍、3軍扱いなのか。
それまで深く考えたことはなかったが、確かに服装で職業のイメージって決まってしまう。スーツはスーツ、作業着は作業着。イメージも機能もまったくの真逆。そして、どちらもずっと長らくなんの変化も進化もない。スーツと作業着の境目をなくす。そうすれば、職業観が変わるかもしれない。業界に一石を投じることができるかもしれない。熱い想いが腹の底から込み上げてきた。「よし、やろう」あの日ポツリとアイデアを口にした、人事の女性社員を呼び出した。
スーツに見える作業着の開発が始まる
「あのスーツのアイデアを採用する」「えっ。社長、単なる思いつきだし、半分冗談ですよ。本気にしないでください」「いや、俺は本気だ。やると決めたらやる。発案者として一緒にやってもらう」「えーーー、勘弁してください」
嫌がる彼女を無理矢理に引きずりこんだ。前代未聞のプロジェクトがここにスタートする。服づくりなんてしたことのない水道屋。もちろん簡単にいくはずがなかった。まずは試作からはじめてみるかと、様々な生地を取り寄せ、つくってくれるところを探し、サンプルをつくり現場で試してみた。
耐久性がいい生地を使うと、着心地が悪くなった。着心地がいい生地だと、耐久性が悪くなった。見た目を重視すると、機能性が悪くなった。機能性を重視すると、スマートさが消えた。そして作業着なので、毎日、洗濯機でガシガシと洗えなくてはならない。流石にそう簡単ではないと思ってはいたが、まったくもって上手くいかない。
最新の生地を様々なメーカーから何十種類も取り寄せた。試作を何度も何度も繰り返した。しかし、すべてダメだった。普通は、ここでやめるか、妥協するだろう。だって、社内のユニフォームのことだから。だが、根っからの負けず嫌いの僕の心には火がついていた。