成年後見制度とは、簡単に説明すると、認知症などにより意思能力が不十分になった人に対し、本人の行為を代理できる法定代理人(成年後見人など)をつける制度である。
こうした成年後見人がつくことにより、預金の出し入れや本人のために必要な介護サービスの契約など、意思無能力者である本人ができなくなったことを成年後見人が代理で行うことができるようになる。
また、本人がよくわからずにしてしまった行為を成年後見人が代わりに取り消すことで、本人の権利・財産を守ることもできる。そして、この制度を利用するにあたっては、本当に本人の意思能力が低下しているかどうかなどを家庭裁判所が審査し、誰が法定代理人となるかを決定することとなっており、本人の財産を守るための制度設計となっている。
成年後見制度の落とし穴
逆に言えば、意思無能力者とみなされる程度に認知症が進行してしまった段階で、本人の財産を動かしたい場合や、本人名義で何かしらの契約を行おうとする場合、成年後見制度を利用する以外にスムーズに解決できる制度はない、という言い方もできる。
こういう説明の仕方をすると、成年後見制度が万能の制度であり、困ったら成年後見制度を使えばいいか、という考えをもたれる方もいるかもしれない。しかし、お金の問題という観点で見たときに、成年後見制度にはいくつか知っておくべき注意点がある。
例えば、成年後見人は家庭裁判所が適任者を選ぶことになるため、誰がなるかわからないという問題がある。親族を成年後見人の候補として申請したとしても、家庭裁判所の判断で、親族以外の専門職(弁護士、司法書士など)がつくことが多い。
実際、直近の裁判所の資料によれば、成年後見人全体のうちで、親族がなるケースは2割程度となっている※1。そして、成年後見人がつくようになると、本人の資産については、成年後見人が管理するようになるため、本人以外の親族から見れば、自由に使えなくなる、という見方もできる。
親族が「本人の資産を使わせてほしい」と希望したとしても、成年後見人が本人の生活には不要である、と判断すれば拒否することができてしまう。「認知症になる前に、〜〜にお金を使いたいと本人が言っていた」「もし本人が認知症じゃなかったら、こういうお金の使い方をしていたはずだ」といった本人の意思を代弁するような形であったとしても、認められないとされている。