親が認知症になって判断能力を喪失したら、預金も資産も凍結されてしまう――。そんな最悪のシナリオを未然に防ぐ方法として、「家族信託」が有効だ。親の生活費の拠出はもちろん、誰も住まなくなった「空き家」の処分も、自由に行えるようになる。どうすれば、この制度を最大限に活用できるのか。かかる費用はいくらなのか。家族信託に詳しい2人の専門家が、ずばり解説する――。
住まいや預貯金など、自分の資産をどうしたいか。親は元気なうちに子供と相談して、「家族信託」を結んでおけば、憂いなしとなろう。(イラスト=iStock.com/studiolaut)

「凍結」されたら打つ手なし!

認知症対策、相続対策の有効な手段として、「家族信託」が注目されている。では、その“対策”とは、何ができるということなのか。

「これまでは本人でなければ動かせなかった資産を、安心して息子や娘など家族に任せ、その管理を家族が行えるということです」

そう教えてくれたのは、家族信託の実用化にいち早く取り組み、質の高い家族信託を提供することで知られている、松野下グループ代表の司法書士・松野下利代氏と副代表・小川智美氏だ。

たとえば、親が死亡したら親本人の銀行口座が凍結されるのは、耳にしたことがある人も多いだろう。一方、意外と知られていないのが、親が認知症になった場合にも資産が凍結されるという事実だ。

「ご本人の財産を守るために必要なことではありますが、これこそ超高齢社会におけるリスクにほかなりません。第一生命経済研究所が2018年8月に発表したマクロ経済分析レポートによると、認知症患者の保有する金融資産額は17年末には143兆円、これが30年には215兆円に達すると試算されています。認知症患者ご本人にとっては、自分が築いてきたお金を自分や家族のために使いたいと思うのは当然のはず。ところが、実際にその面倒をみる側の子供たちは、そのお金に手出しができない。つまり、認知症患者の資産は守られても、親も子も経済的に窮地に立たされる。なんとも不幸な図式がそこに生まれているのです」

では実際に、松野下氏へ寄せられる相談案件は、どのようなものが多いのかを教えてもらおう。これを解決してくれるのが家族信託と考えればイメージしやすいはずだ。

・親が認知症などにより判断能力を喪失してしまったら、親の銀行口座が凍結され、家族のために必要なお金が下ろせなくなると困る。
・高齢になり、賃貸経営のさまざまな交渉、契約、手続きが面倒になってきたので子供に賃貸経営を任せたい。
・親の財産が凍結されると、自分(子)の収入だけでは親の面倒をみていくことに不安がある。
・自分には子供がいないが、先祖代々受け継いできた財産は、自分の直系で受け継いでほしい。
・将来、親が介護施設や老人ホームに入居することになった場合、誰も住まなくなる実家を処分して売却代金を介護施設等の費用に充てられるようにしておきたい。
・障害のある子が「親亡きあと」にお金で困らないように、信頼できる人に財産管理を任せたい。
・自社株を直系に承継させていきたい。