すでに広く知られるようになった「空き家問題」。近隣住民に迷惑をかけ、ときに倒壊などの危害も撒き散らすだけに、「なぜ早く撤去しないのか」と憤る声も聞く。だが現実は、死去もしくは年老いた親の住まいをどうするか、となった瞬間、思考停止に陥ってしまうという。とりあえず空き家のままで、となった場合、どんな事態が生じるか。この問題に詳しい専門家が、ずばり解説する――。
年老いた両親には、健康で長生きしてほしい。だが、それがままならなくなったとき、「空き家問題」に巻き込まれることに。(イラスト=iStock.com/MichikoDesign)

面倒臭くて、お金もかかるから……

「平成30年住宅・土地統計調査」(総務省統計局)が早ければ今春にも発表される見通しだ。増え続ける「空き家問題」に改めて注目が集まることは必至となろう。

同調査は5年に1回行われている。「前回調査後には通称『空家等対策特別措置法』が国会で成立するなど、一気に空き家問題がクローズアップされた経緯があります」と、NPO法人空家・空地管理センター代表理事の上田真一氏は語る。

「空き家で問題となることが多いのは、一般に不動産会社が管理する『売却用』や『賃貸用』、所有者が管理する別荘などの『二次利用』ではない、『その他』に分類される空き家。管理する動機が比較的弱い物件です。2013年時点で318万戸あり、今後急速に増加すると予想されています。当然、所有者管理が基本ですが、中には所有者を特定できないケースすらあるのです」

狭い日本においてマイホームを手に入れることは、いまだ容易とは言えない。それにもかかわらず、なぜ、これだけたくさんの空き家が生まれ問題が生じるのだろうか? その要因は、空家・空地管理センターに寄せられる相談内容にも垣間見える。

「たとえば、親が亡くなり誰も住まなくなった実家を子供が相続したとします。『老後は実家へ戻るかもしれない』と考え、最初のうちは月に1、2回は実家へ帰り、庭の草木の手入れをしたり、家の不具合を直したりするかもしれません。しかし、1年が経ち、2年が経つと、徐々に足が遠のきます。実家までの移動にかかる時間や費用、労力、そして家を管理する手間が重荷に感じるようになるからです。やがて5年も経つ頃には、家は老朽化し庭の草木は荒れ放題。すると役所から通知が届いたり、近所からのクレームにより追い詰められる、というわけです」

問題はここからだ。首都圏などで不動産取引がある程度スムーズに進むエリアにある“普通の”家なら、家を取り壊して土地を売るという対処もしやすいだろう。税金を支払わなければならなくなったとしても、ある程度まとまったお金が手元に残るのだから「結果よし」と考えることができる。

「これが田舎だと土地代はうんと安い。しかも家が大きく土地が広いので解体費用や整地費用がかかりがち。“見込み赤字”の金額によっては、躊躇せざるをえないケースが出てきます。また、空き家が発生する最も一般的な原因は、自宅を所有する高齢者が老人ホームなどの高齢者住宅や子供宅などに転居することです。今後、団塊の世代を含めた高齢者は急激に増えていきます。それに伴い、空き家もどんどん増えてしまうのです。特に駅から遠い利便性の良くない地域にある住宅街では空き家が一気に増加することが予想されています」

ほかにも、都会か田舎かにかかわらず、相続した家がゴミ屋敷になっていて撤去費用が負担になるケース、親の遺品整理が進まず結局は何年間も空き家状態で放置しているケース、狭小地あるいは不整形地であるがゆえに買い手がつく見込みがないケースなど、空き家が誕生する経緯は多岐におよぶようだ。