「火災保険は適用外」って本当?

「親が所有する自宅が空き家になってしまっている主な原因は、親の心の中にある『いつか自宅へ帰りたい』『最期は自宅で迎えたい』『思い出が詰まっている家を売りたくない』との思いのほか、認知症になっているなどの理由で判断ができないといったケースもあります。一方、子供が実家を相続した場合では、『どこに相談すればいいかわからない』『兄弟間で揉めている』『実家をほかの形に活用することは気が引ける』などといったことが障壁となっています」

そうした中でも、「何とかしなければならない」と考える人は着実に増えている。

「相談件数は増える一方で、特にここ1年は急増している印象です。私どものところへ相談にいらっしゃるのは50代以上の方が中心。空家等対策特別措置法の成立以降、行政が対策計画を作り、きちんと管理されていない空き家に対する処置を厳しくしたり、補助金制度が作られたりしてきました。それによって様々な場面で多くの人が『空き家』というキーワードに触れる機会が増えたのです。結果として、特に相続にからんで『空き家になりそうだから、何とかしなければならない』という問題意識が高まったり、そこはかとない不安が広まったりしている形です」

とはいえ、「どうすればいいのかわからない」と訴える人が圧倒的に多いのだと上田氏はいう。

「空き家を巡っては『管理』、あるいは『活用』といったキーワードにたどり着く人は多いものです。ただそれを、自分のケースにあてはめて具体的にどうするかという段になると思考停止になってしまうわけです」

はたして空き家は、本当に「悪」で「迷惑」な存在なのだろうか。

「適切に管理されていない、放置された空き家によってもたらされる周辺への被害は、老朽化による倒壊、景観の悪化、放火による火災、不審者の侵入による治安悪化、落雪事故などが考えられ、場合によっては損害賠償責任を負わなければなりません」

もし「火災保険に入っているから安心」と考えている人がいたら、注意が必要だ。

「まず、空き家は火災保険に入れないという損保会社がほとんどです。つまり、空き家になってしまったことを損保会社に伝えていないと、保険料を支払っていても、いざ火災が起きたら告知義務違反で保険金が下りないというケースが考えられます。小さな文字でびっしりと書かれた保険の約款を、もう一度念入りにチェックしてください。『居住の実態がないものはダメ』とか『いわゆる空き家はダメ』といった趣旨のことが書かれた文面があったらNGと考えたほうがいいでしょう。一方、条件を満たせば火災保険の適用を受けられる場合もあります。その場合でも、損保会社の代理店の方などと現地を一緒に見た上で判断してもらっておいたほうが無難です」

でも、火災で空き家がなくなれば、「解体費用は安く済むのでは?」と考えたら大間違い。

「割高になるケースが少なくありません。リサイクルのための分別が厳しくなっていますので、燃え残った家を一気に壊すわけにもいきません。建物がもろくなっているので重機も使えず、すべて手作業になることすらあるのです。火災前なら100万~200万円で解体できていたはずなのに400万~500万円かかった、などといった事態にもなりかねません。じつは全国には燃え残った家が放置されているケースもあるのです。各地域で大きな問題になっています」