「適性に管理する」を忘れるな!

火災や倒壊、不審者の侵入などといった問題のほか、空き家を放置した場合にどのようなデメリットがあるのだろうか。

「空家等対策特別措置法により、行政から助言・指導、さらには勧告があったにもかかわらず改善がみられず、『特定空家』に指定されたうえで行政から『きちんと管理をしなさい』などといった勧告があると、固定資産税が最大6倍、都市計画税が最大3倍にまで跳ね上がります。つまり住宅として認めませんということです。また命令に従わなければ最大50万円以下の罰金を支払わなければなりません。さらに建物の倒壊の可能性が高いなど非常に危険な状況にある場合は、行政代執行が可能です。つまり、行政が所有者に変わって空き家の解体を行い、その費用を所有者に全額請求できるのです。所有者がこれを支払わなければ、給料、年金、資産などすべてが差し押さえの対象になります」

上田氏は、「空き家の所有者にとってメリットとなる選択肢を増やさなければ、根本的な解決は望めない」と警鐘を鳴らす。

「空き家を巡る問題のほとんどは、所有者が悪で近隣住民は被害者という構図で捉えられがちです。しかし、そんな単純なものではありません。所有者自身も、空き家の管理や活用について手詰まりとなっていることが多いわけで、まさにそれこそが社会問題なのです」

では現状として、どんな手立てが考えられるだろうか。

「『今は売りたくない』と思っているなら、定期巡回を行い適正に管理する。その間に心の整理がついたり、関係者との話がまとまったり、あるいは老後を迎えて自分が住むということにもなるかもしれません。自分だけで管理できなければ、不動産会社や警備会社の管理代行サービスを取り入れるのも一つの方法です。1カ月5000円程度から利用できるケースが多いようです」

また、空き家の管理や利活用については専門家の手助けが役立つことも少なくない。空家・空地管理センターのように、行政書士、司法書士、弁護士などさまざまな専門家と連携がとれるワンストップの相談窓口が、社会の中にもっと充実することが望まれる。実際、空き家を売却しようと思ったら、それ以前に空き家の解体と整地だけで1500万円はかかる見込みだったのが、専門家の知恵を借りたら差し引き100万円の持ち出しで処分できたケースもあるという。

「相談者の話によくよく耳を傾けると、ある程度方向性を決めている人が多いのも事実なんです。解体して売りたい、残しておきたい、別の形で活用したいといった具合に。ところが、それを前に進めていくための知識や情報を持っていない。行政は管理に関する情報が充実していますし、民間には利活用に関するノウハウがある。官民がそれぞれ強みを発揮する形で相談窓口ができれば望ましいですね」

空き家の所有者にとってメリットを感じられるような選択肢が増えるか、さらに、それを実行する際の道筋が見えやすくなるか――、空き家問題の根本解決には、ここにもスポットが当てられる必要がありそうだ。

(文=小澤啓司 イラスト=iStock.com)

上田真一(うえだ・しんいち)
NPO法人空家・空地管理センター代表理事。北斗アセットマネジメント代表取締役。1984年埼玉県生まれ。高校2年から単身米国留学、オハイオ州立大学を卒業後、ベトナム企業で不動産事業部を立ち上げる。帰国後はリクルートに入社、住宅設備、建材メーカーなどへの営業を担当。2010年、父親が経営する不動産会社に入社、新規事業としてNPO法人空家・空地管理センターを設立して現職。東京・埼玉を中心に1000軒を超える空き家に足を運び、管理・活用ノウハウを築く。15年、東京・新宿に「空き家相談センター」を開設、全国各地での講演活動を通じて、提言も積極的に行っている。著書に『あなたの空き家問題』がある。