不正を完全になくすことは難しい

これを、親族が成年後見人であるときに起きる不正について当てはめてみると下記のようになると考えられる。

「機会」:成年後見人というお金を動かせる立場、本人は認知症で気が付きにくい状況。
「動機」:お金が入用であるなどの事情。
「正当化」:本人は生活に必要な以上にお金をもっており、少々減ったとしても本人は気付かないため困らず、誰にも迷惑をかけないという考え。成年後見人を引き受けたり、介護をしたりと苦労をしている分、見返りや役得があって当然であるという考え。子が親のお金を使うことや、親からお金をもらうことは当然の権利であるという考え。

以上のような背景から、親族による不正が起きていると推測できる。こうした背景があるとした場合、仮に第三者によるチェックを厳しくし「機会」の部分について改善をみせたとしても、「動機」と「正当化」の部分を完全に無くすことが不可能であることから、不正の芽を完全に摘み取るのが難しくなっていると考えられる。

そのため、常に不正が起きる可能性がある、ということを頭の片隅におきながら、成年後見制度と向き合っていく必要がある。特に、親族が選ばれる場合でも、選ばれた人以外の親族がその行動をチェックするようにするなど、対策をとることが求められる。

用途を指定して資産を残す「家族信託」

成年後見人による着服などの不正を防ぐための単純な方法としては、成年後見人が管理する財産の規模を小さくすることなどが挙げられる。

上述のように、本人の生活費として必要な分以上の多額の財産が成年後見人によって管理される際に着服の余地が起きると考えられるため、あらかじめ資産の整理などを行っておくことが、そうしたトラブルを防ぐことになると考えられるためである。

具体的な方法としては、認知症が進行し成年後見制度を利用する前の段階で、贈与や寄付などの方法で財産を移転することや、銀行などに信託する方法が挙げられる。

特に最近注目を集めているものとしては、「家族信託」という方法がある。家族信託とは、信頼できる家族に財産を託すこと、ということになるが、ただあげるだけの「贈与」とは異なり、「財産の一部を孫の教育費のために充ててほしい」といったような用途を指定しておくと、託された家族は、その用途通りに使わなければならないものである。

逆を言えば、その範囲の中であれば、家族はある程度自由に使うこともできるため、本人のためにしか使うことができない成年後見人の財産管理よりも、柔軟な活用が可能になり、家族側にとっても助かる面もある。そして、家族信託は、複数の違う内容の信託契約を結ぶことや、受託者を複数人に設定することもできるため、成年後見人のような特定の個人に財産管理が集中することを防ぐこともできる。

紙面の関係から詳細な解説は省くが、認知症が進行する前であれば、このような方法をとることでトラブル防止につなげられる可能性もあるため、親族間でよく話し合い、必要に応じて専門家に相談しておくことが望ましいだろう。