成年後見人による不正の9割以上が親族によるもの

このように、成年後見人は本人の資産を管理する上で、強い権限をもっていることになるが、こうした中で、成年後見人による不正な使い込みという問題が生じている。

裁判所の資料によれば、2011年から2020年までの間に、後見人等による不正が4382件起きており、その被害額の合計は、約283億6000万円に上る※2

その不正を行った後見人等の内訳としては、専門職が218件、専門職以外(親族など)が4164件と、圧倒的に専門職以外による不正が多く起きている。具体的な事例として、親族が成年後見人として不正を行った事件のうち、新聞などで報道されたものをいくつか表に示した。

親族が成年後見人として不正を行った事件の例
出所:各種報道を基に筆者作成

このように、成年後見人となった親族による不正事案が数多く起こっている。それぞれの事案の詳細については把握できていないが、報道内容をみる限り、認知症が背景にあり、成年後見人がつけられている事案がほとんどであると推測される。いずれにせよ、本人の財産を保護するための成年後見制度を悪用し、本人の財産を侵害するということは、あってはならないことだ。

なお、成年後見人は、チェック体制が全くないわけではない。

成年後見人として選任された後は、家庭裁判所により不正が行われていないかチェックを受けることになる。特に、親族などの専門職以外の人間が後見人となる場合には、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた時点で、監督人という形で専門職が同時に指名され、その業務が適正かどうかを監督させる場合もある。

こうした不正事案が多発したことから、監督人を積極的に指名したり、親族以外の専門職を成年後見人として選任したりするなど、裁判所側も対策を強化しており、2015年度以降の不正事案は減少傾向にある※2

しかし、それでもなお不正事案は完全には防げていない。公表されているもののうち最新の2020年の調査結果を確認すると、不正件数は全体で186件、そのうち専門職以外によるものが156件で、被害額はトータルで約7億9000万円となっている※2

「不正のトライアングル」から見る後見人の不正

上記のように、外部によるチェック体制があるにもかかわらず、成年後見人による不正がなくならず、特に親族による不正が多く起こってしまうのはなぜなのか。

上記の報道された実例をみても、そのシチュエーションはさまざまであり、法則性があるとまで断言できるほどの共通点も見受けられない。そのため、あくまでも推測になってしまうが、「不正のトライアングル」という考え方を用いながら、成年後見人による不正が起きる背景について検討する。

不正のトライアングルとは、アメリカの犯罪学者であるドナルド・R・クレッシーにより提唱された考え方であり、監査やセキュリティの分野で広く知られているものである。クレッシーは、銀行の横領犯に対するインタビューを通して、もともと善良な職員が不正を行ってしまう背景には、「機会」「動機」「正当化」の3つの要素があることを明らかにした。

「機会」とは、例えば、悪いことをしてもばれない状況にあるなど、不正をしやすい環境にあることなどを指し、「動機」とは、例えば、お金を多く得たい、などの不正を行おうと考えてしまう事情などを指し、「正当化」とは、例えば、組織のためには仕方ない、など不正を正当化するようなもっともらしい理由づけを指している。