どうすれば老後の資産を守れるのか。慶應義塾大学医学部の木下翔太郎助教は「この10年間に不正利用された認知症患者の資産は約280億円。その9割以上は親族による犯行だ。家族信託などの制度を使い、適切な相手へ資産を残す仕組みを利用するべきだ」という――。
懐の札束を突っ込む男性
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2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になる

超高齢社会を迎えた日本では、認知症は増加の一途をたどっており、2015年に発表された研究によれば、2025年には65歳以上の5人に1人である約730万人が認知症になると推計されている。

このように、認知症が増え続ける中で、意思能力が低下し、法律上の契約ができなくなってしまった方を支える制度である成年後見制度も注目を集めている。しかし、成年後見人をめぐるトラブルが生じることもあり、その中で、「成年後見人による不正」という問題がある。

本稿ではこうした成年後見人による不正について事例を含めて紹介し、こうした不正が生じる背景や予防策などについても解説する。

意思能力の低下と成年後見制度

認知症が進行してしまうと、文章を読んだり、相手の話を聞いて理解したり、意思表示をしたりすることが十分にできなくなる。その場合、法律上では、十分な判断能力がない状態、「意思無能力者」の状態とみなされる。

このような状態になってしまうと、商品の購入、サービスの契約、預金の引き出しなど、法律行為とみなされるものが全てできなくなり、日常生活に大きな影響を及ぼすことになる。そうした際に、本人の法律行為を代理で行う人の存在が必要になり、このような場合に使える制度として、成年後見制度がある。