フリー経済は本当の意味で市場を創造したわけではない

【楠木】YouTubeなどの再生数が生みだす広告経済的な価値は、いずれ落ち着くところに落ち着くでしょう。そのことを一番よくわかっているのが、当のYouTubeのはずです。

この四半世紀ほど、GoogleやFacebookがあれだけヒト・モノ・カネをぶんまわして試行錯誤したのに、「マネタイズ」の方法としてはいまだに広告や販促しか見つかっていない。これだけやって見つからないということは、おそらく今後も見つからないでしょう。Facebookは売上高のほとんどすべてが広告収入です。

ところが、アメリカでは広告市場の規模はほとんど変化していません。ネットは新しい広告需要をつくったわけでなくて、新聞やテレビといったオールドメディアからシェアを奪っただけです。本当の意味で市場を創造したわけではありません。

撮影=西田香織

広告に支配されると、やりたいことができなくなる

【東】出版やテレビの世界は、広告に支配されると、やりたいことができなくなることを知っていました。その知恵が忘れられている。IT革命によって、結局はみんなまた広告メディアに戻ってしまった。広告への警戒心を取り戻して、広告がなくてもやっていけるメディアをあらためてつくるべき時期だと思います

たとえば、ゲンロンが主催するオンラインのトークイベントは、長ければ5時間ほどあるのですが、会員以外の方には1000円で売っています。スタートした頃からずっと高い、高いと言われてきました。ところが新型コロナでオンラインの講演やセミナーが増えたら、逆に格安だと言われるようになりました。よそが1時間で3000円ぐらい平気で取っているから、いまでは「ゲンロンは価格破壊だ」と。

【楠木】ずっと同じ価格帯なのに。

【東】かつて人々は動画にお金なんて払わなかった。だから広告に頼るほかなかったわけですが、いまは商品になることが発見されたわけです。しかもコロナ禍で需要も定着した。わずか1年の間に、商品じゃなかったものが商品になり、新しい顧客と作り手の関係、新しい等価交換が生まれた。インターネットの使い方にはまだまだ可能性があるかもしれません。(後編に続く

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