ネット経済は「無料」をベースに急拡大してきた。だが、それは商売として真っ当だったのだろうか。哲学者の東浩紀さんは新著『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)で、言論活動でお金を稼ぐ苦労を赤裸々に綴った。同書を読み、「感動的」と評した経営学者の楠木建さんとの初対談をお届けする――。(前編/全2回)
失敗→反省→自己認識のおもしろさ
【楠木】『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』(中公新書ラクレ)を興味深く読ませていただきました。考えさせられるところが多々ありました。
【東】ありがとうございます。楠木さんのような経営学者に褒められるとちょっと恥ずかしいですね。2010年に39歳でちっちゃい会社をつくって、それから10年ほど悪戦苦闘したというだけの記録ですから。
【楠木】白状すると、東さんの著書は初めて読みました。書店で平積みされていたので、「これはおもしろそうだな……」ぐらいの興味で手にとったんです。読んでみて、期待をはるかに超える内容でした。この本で東さんの哲学・思想の一端を知ることができたので、これから『ゲンロン0 観光客の哲学』なども読んでみます。「観光」とか「誤配」といった概念は実にイイですね。
【東】『ゲンロン戦記』で初めて僕の本を読んでくれた方はけっこういるみたいです。Twitterの反応を見ても、これまでの読者とは違う。30代40代のビジネスパーソンが「身につまされる」と感想を書いているのは意外でした。
【楠木】この本は、会社経営のドタバタが題材ですけれど、読み手の興味によっていくつかの違った主題が読み取れると思います。僕の関心は、東さんが失敗や反省から自己認識を再構築していく過程です。僕もそうですが、東さんは徐々にしか反省しないですね。3歩進んで2歩下がる。今さらながら、水前寺清子さんはイイことを言っていたと思います。
【東】そうなんです、人間は徐々にしか反省しない。