輸出の増加が雇用増につながらない深刻さ

その上に新型コロナウイルスの感染が発生し、韓国の雇用・所得環境にはさらなる下押し圧力がかかっている。2021年1月の失業率は季節調整後で5.4%と、前月から0.9ポイント上昇した。業種別に失業率の変化を確認すると、飲食や宿泊に代表される非製造業だけでなく、製造業でも雇用が失われている。また、世代別にみると若年層に加えて60歳以上の失業率も上昇した。韓国の雇用・所得環境の悪化はかなり深刻だ。

その一方で、雇用以外のマクロデータを見ると、世界経済の中でも韓国経済は良い状況にある。例えば、50を境に景気の拡大と縮小を示す製造業PMI(購買担当者景況感指数)は50を上回って推移し、輸出も堅調だ。その背景には、世界経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の加速によってサムスン電子やLG化学など大手財閥系企業の業績が拡大したことがある。

しかし、失業率のデータを見る限り、輸出増加が雇用の創出につながっていない。それが示唆することは、足許の韓国経済は自律的かつ持続的に雇用を生み出すことが難しくなっているということだ。

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業績悪化にもかかわらず、ストライキを選ぶ企業も

その状況下で懸念されることの一つが、労働争議の激化だ。失業率の上昇は、自らの既得権が弱まる、あるいは失われるという労働組合加入者の不安心理を高める。その状況を回避するために、韓国の労働組合はストライキなどを行うことによって、企業の経営者に賃上げなどを求める可能性がある。

例えば、ルノーサムスン自動車は販売の減少によって業績が悪化している。同社経営陣はコスト削減を進め生き残りを目指している。その状況下、常識と良識に基づいて考えれば、役職員が協力してより効率的な事業運営を目指すのがあるべき姿だ。

しかし、ルノーサムスンの労働組合は経営陣との協力よりも、ストライキの構えを示している。自動車以外の業種でも、待遇改善などを求める労働組合の勢いは増しているようだ。その状況が続けば、企業の収益力は追加的に低下し雇用環境には一段の下押し圧力がかかるだろう。