人種計画ともパラレルな関係、「アーリア的」帝国を目指した

つまりルッツ・ヘックらの絶滅動物再生計画は、ジークフリートが生きていたとされる時代の自然、つまり「アーリア的自然」をよみがえらせるものだったのだ。ついでにいえば、彼らの計画は「アーリア的」な形質をもつとされた人びとの子孫を増やして「純血種」を増やそうとする、ヒムラーの人種計画ともパラレルな関係にあった。ナチスは、彼らが「アーリア的」とみなす人種、文化、自然によって統一された帝国をつくろうとしたのであり、ベルリン動物園はその一翼を担っていたのだ。

それにしても、絶滅動物の再生というと難しそうに聞こえる。しかしルッツによれば、遺伝の担い手は染色体という「固体の成分」であり、すべての生きものはこれがモザイクみたいに集まってできている。つまり、現在の家畜のウシやウマから、先祖オーロックスやターパンにさかのぼる染色体だけを「切りはなし」、「結合」させればよい。早い話が、彼らが「祖先の姿に似ている」と思ったウシやウマを選んできて交配させ、子孫をつくらせるのだ(ルッツとハインツのやりかたには違うところもあったが)。

「本物以上に本物らしい生きもの」を誕生させた

こうして、彼らの手でオーロックスもターパンも「よみがえる」ことになった(P1、図版1)。ただ、これらが本物のオーロックスやターパンなのかといえば話は別である。たとえばオーロックスについては、ヘック兄弟は科学的な調査にもとづくよりも、勝手につくりあげた「原牛」のイメージにしたがって交配をくりかえしたことが明らかになっている。ヘック版の「復元動物」は、本来の姿に近いというよりは、彼らが理想とする姿をあらわした生きもの、つまり「本物以上に本物らしい」一種の怪物であった。

ヨーロッパバイソンの再繁殖も、やはり問題のあるものだった。アメリカ大陸から連れてきたアメリカバイソンを、ヨーロッパバイソンと交配させたのである。

なぜこんなことをするのかといえば、アメリカバイソンの旺盛な繁殖力だけをいただこうというのだ。こうして生まれた子孫は、たしかに「混血」であるが、ヨーロッパバイソンと交配させていけば、いずれもとの種に近いものとなろう。アメリカバイソンの遺伝子をしだいに圧迫するわけだから、ルッツはこのプロセスを「圧迫育種」とよんでいた。