19世紀のドイツでは、恐竜を展示する「ジュラシック・パーク」が計画されていた。関西大学文学部の溝井裕一教授は「そうした動きは、フィクションより一歩も二歩も先んじていたといっても、過言ではない」という――。

※本稿は、溝井裕一『動物園・その歴史と冒険』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

ジャングルの中のティラノサウルス・レックス
写真=iStock.com/Orla
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新種のロバを見抜いたビスマルク

19世紀末から20世紀初頭にかけて、未知の生きものが発見され、動物園ではじめて紹介されることがたびたびあった。世界的に有名な動物商カール・ハーゲンベック自身、これにかかわっている。

たとえば、ハーゲンベックのヨーゼフ・メンゲスという海外派遣員は、ソマリランド(アフリカ東岸)に立ちよって、珍しい生きものがいないか探索したことがある。そのさい、彼が発見してドイツに送った動物に、奇妙な種がいた。青みがかった灰色の、足に縞がある野生ロバである。

明らかに珍種であるにもかかわらず、どの動物園も買おうとしない。するとたまたま、ハーゲンベックのところに宰相さいしょうビスマルクがやってきた。彼はたちまちこのロバに注目し、「わたしは動物学者ではないが、ひと目みれば、こいつは新しくて珍しい種に違いないとわかるよ」といった。ビスマルクの直感は正しかった。のちにロンドン動物園がこの個体を購入し、新種であることをつきとめる。ソマリノロバである。

コビトカバ、セイウチ、ヒョウアザラシ…珍しい生きものを獲得

彼の名声をさらに高めたのは、コビトカバの獲得である。コビトカバは、1844年、西アフリカに由来する骨格にもとづいてはじめてその存在が確認された。1873年に、生まれたばかりの幼体がシエラレオネの原住民によってつかまり、イギリス総督の手を介してダブリン動物園に移送されたものの、到着してすぐに死んでしまう。スイスの動物学者ヨハン・ビュティコーファーも、リベリアで観察に成功したが、それでもなお、それがたんなる小さなカバではないかと疑う人びとが多かった。

だがハンス・ションブルクというアフリカ研究者が、コビトカバはたしかにいるという情報を得てハーゲンベックを説得し、その支援を受けてリベリアでとうとう5頭捕獲することに成功。1912年にハーゲンベックのもとへ無事送りとどけ、さらにうち3頭がブロンクス動物園にわたった。この事件が、人びとを熱狂させたことはいうまでもない。ハーゲンベックは、ほかにもセイウチやヒョウアザラシなど、当時珍しかった生きものの獲得に熱心だった(Dittrich 1998,Hagenbeck 1909)。