コナン・ドイルが描いた世界は、ハーゲンベックの動物園そのもの
ちなみに、未確認生物研究者ダニエル・ロクストンらがいうように、このハーゲンベックの文章は、トップスター級の未確認生物「モケーレ・ムベンベ」の伝説が生まれるきっかけとなるものであった(Hagenbeck 1908,ロクストン 2016)。
1912年には、ある有名な探検小説が出版されている。アーサー・コナン・ドイルの『ロスト・ワールド』である。そこでは、主人公のチャレンジャー教授が、南米の奥地を探検し、「メイプル・ホワイト台地」のうえに恐竜はもちろん、人間とサルの中間形態とおぼしき生きものや、人間ではあるが「未開」な人びとがすんでいるのを発見する。
ドイルが描きだした「失われた世界」は、恐竜から「未開人」までそろえていたハーゲンベック動物園の姿そのものである。そのうえハーゲンベックの恐竜探索は、この小説に先行していたのだ。ハーゲンベック動物園は、フィクションより一歩も二歩も先んじていたといっても、過言ではない。
【参考文献】
Dittrich, Lothar and Annelore Rieke-Muller. Carl Hagenbeck (1844 -1913):Tierhandel und Schaustellungen im Deutschen Kaiserreich. Frankfurt am Main:Peter Lang, 1998.
Hagenbeck, Carl. Von Tieren und Menschen: Erlebnisse und Erfahrungen von Carl Hagenbeck. Berlin: Vita Deutsches Verlagshaus, 1908, 1909.
ロクストン、ダニエル、ドナルド・R・プロセロ(松浦俊輔訳)『未確認生物UMAを科学する―モンスターはなぜ目撃され続けるのか』化学同人、2016年。