レンツィ元首相には、政権の安定を望むコンテ首相から妥協を引き出し、重要な閣僚ポストを得たいという意図があったとされる。今イタリアで解散総選挙となれば、行動制限の長期化で疲弊しきった有権者の票が野党に流れる恐れは大きい。それに政府の債務問題や銀行の経営不安を抱えるイタリアの場合、政局不安は金利の上昇につながりやすい。

金利が上昇すればおのずと金融不安が意識される。そうした展開を回避するためにコンテ首相は歩み寄るはずだとレンツィ元首相は考えたようだ。こうしたレンツィ元首相の「壊し屋」としての振る舞いに対しては当然だが非難が相次ぎ、とりわけコロナ対応で先頭に立つスペランツァ保健相は議会でレンツィ元首相を痛烈に批判した。

結局1月26日付で、コンテ首相は辞任。解散総選挙を回避しつつ、新政権の樹立を目指すことにした模様だ。マッタデッラ大統領が再度コンテ首相を任命すると期待してのことだがその保証はなく、新たな首相が任命されるか解散総選挙が行われる可能性も出ている。

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長期政権ほどコロナ禍で信頼を取り戻したヨーロッパ

新型コロナの封じ込めに成功した国は極めて少ない。ヨーロッパを見渡すと、当初は一定の成果を上げたドイツやスウェーデンでも、第2波、第3波は抑えきれないでいる。大局的に見れば、各国で取られている行動制限の内容にそのものに大きな差はない。とはいえ、政権がコロナ対応で支持率を上げたケースもあれば下げたケースもある。

支持率を上げたケースの典型がオランダやドイツだ。うちドイツは1月15~16日に与党・キリスト教民主同盟(CDU)がオンラインで党大会を開催、ノルトライン・ウェストファーレン州首相のラシェット氏が新たな党首に選ばれた。メルケル路線の踏襲を明言するラシェット氏が9月の総選挙を経て新首相に就任する可能性が高まっている。

コロナ前までCDUの支持率は顕著に低下していた。2005年から続くメルケル政権に対する有権者の飽きに加えて、移民問題に対する不満などが支持率の低下に追い打ちをかけた。しかし第1波でのメルケル政権のコロナ対応が評価され、30%を下回っていた支持率は40%近くまで上昇、今に至るまで高水準をキープしている。

コロナ危機という未曽有の事態に直面し、その不透明感から人々は慎重にならざるを得なくなっている。そうした中で、長期政権の国ほど人々がそれまでの政権の実績を評価し直し、信頼を強めたのではないだろうか。移民問題で人気を高めた民族主義政党がこのコロナ禍で失速したことも、そうした長期政権の国の追い風に働いた。

一方で、政権が支持率を下げた典型的な国として英国やイタリアがあるが、両国の場合は近年、短命政権が続いており、政治的な成果を十分に残せていない。とりわけ英国のジョンソン政権には、16年6月の国民投票でEU(欧州連合)への残留を希望した人々を中心に厳しい評価が突き付けられており、野党も攻勢を強めている。