中国当局が香港弾圧への批判を意に介さない理由

2019年から始まった「香港の自由を守れ」という市民運動に対し、習近平政権は警察を使って徹底的にこれを弾圧し、ついには「香港国家安全維持法」を制定して、香港の自治権を事実上剝奪しました。トランプ政権は香港の運動を支持し、香港弾圧を命じた中国政府要人の在米資産を凍結できる香港人権・民主主義法をアメリカ議会が可決しました。

ところが日本では、この期に及んで習近平を国賓として招こうという声が自民党内にあります。自民党のバックにいるのは経団連。日本版グローバリスト集団です。トヨタ自動車は、中国企業と合弁で燃料電池会社を立ち上げ、ドイツのフォルクスワーゲン社も中国市場なしにはやっていけません。習近平は、これらのグローバル企業を優待することで、今回の香港危機も切り抜けられると高をくくっているのです。

現在もなお進行中の鄧小平の計画

現在、中国が虎視眈々たんたんと狙う南シナ海における覇権樹立も、1970年代、鄧小平の時代に立案された「列島線」という概念がもとになっています。この計画は、東シナ海と南シナ海、さらにはサイパンやグアムあたりの太平洋までを中国海軍の支配下に置く、というものです。

茂木誠『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』(PHP研究所)

戦後、これらの地域にはずっと、横須賀を母港とするアメリカ第7艦隊が展開しています。中国は、この海域から米軍に出ていってもらいたいのです。「ハワイの向こうは任せますから、グアム島からこっちは中国に任せてほしい」というのが中国海軍の本音です。

このような壮大な計画を練りながら、鄧小平はその野望を微塵みじんも表には出しませんでした。中国が真の実力を蓄えるまでは、アメリカを挑発しない。じっと待つのが最善の策と考えたのです。

鄧小平が貫いた外交姿勢は、「韜光養晦とうこうようかい」と呼ばれています。「能あるたかは爪を隠す」といった意味です。その後も、江沢民、胡錦濤と続く歴代の指導者は、アメリカとの友好関係を演出してきました。

鄧小平が実施した改革開放によって、アメリカや日本をはじめとする外国資本による対中投資が進み、1980年代には製造業をはじめ中国の経済が急激な発展を遂げました。これが、のちにアメリカに莫大な対中貿易赤字をもたらし、アメリカのナショナリズム回帰と米中貿易摩擦を引き起こす要因ともなるのです。

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