※本稿は、茂木誠『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
トランプ政権下で深まった米中対立
自国第一主義を打ち出すアメリカのトランプ政権が、最も激しく対立した国が、中国です。
米中対立は、初めは貿易摩擦から始まりました。中国からの安い工業製品がアメリカ市場を席捲し、アメリカの製造業に深刻なダメージを与えています。「国内の雇用を創出する」ことを公約に掲げて当選し、製造業を支持基盤とするトランプ政権としては、座視できない問題です。
アメリカが2018年から中国製品の一部に関税をかけ始めると、それに反発した中国が、アメリカ製品に同額の関税で対抗する報復措置に出ました。両者一歩も引かない貿易戦争は、2020年1月の協定合意でいったんは収束したかに見えましたが、新型コロナウイルス感染症が世界に広がると、中国をウイルスの発生源と見るアメリカの対中批判が激しくなり、両国は再び火花を散らし始めました。
中国人を「キリスト教化」できると信じていた
軍事的緊張も高まり、一触即発となっているアメリカと中国ですが、両国は昔から仲が悪かったわけではありません。中国を植民地支配しようとした西欧列強や日本とは違い、一度も中国を侵略しなかった唯一の大国がアメリカなのです。
アメリカは、中国へのキリスト教(プロテスタント)の布教と経済進出を夢見ていました。中国人をクリスチャンにし、東アジアに強力な親米国家を建設できると真面目に信じていたのです。日本はむしろ競争相手で、日清・日露戦争で日本が連勝すると、アメリカは日本を警戒し始めます。
日清戦争後の列強による中国分割に対し、アメリカは「門戸開放宣言」を発し、日本が満州事変を起こしてからは、日本と戦う中華民国を一貫して支援する一方、対日経済制裁を発動しました。石油を止められた日本が真珠湾を攻撃し、日米開戦となるのです。